特別縁故者に対する相続財産分与
1 特別縁故者に対する相続財産の分与とは
少子化の影響もあり、相続人がいないというケースが増加傾向にあるように思われます。相続人がおらず、遺言もないまま遺産を残して死亡した場合、利害関係人等の請求によって相続財産管理人が選任されると、遺産は最終的に国庫に帰属することになります。
特別縁故者に対する相続財産分与という制度は、このように相続人が存在しないことが確定して、相続債権者や受遺者への弁済や管理人報酬や管理費用の支払いをしてもまだ相続財産が残る場合に、被相続人と特別の縁故関係にあった人に対して、相続財産の全部または一部を与える制度です。
この制度は、もともとは、法律的な相続権のない内縁配偶者や事実上の養子などの保護を図ることを念頭に置いて設けられたものです。
相続人がいないことが確定した場合の清算後の残余財産の枠内で、家庭裁判所の裁量により分与が認められる制度ではありますが、縁故関係の具体的な内容・程度、相続財産の状況によっては、相当額の財産が分与されることもあり、被相続人と生前親密な関係にあった人は申立を検討すべきと思われます。
2 分与を求めるにはどうするか
特別縁故者に対する相続財産の分与を求めようとする場合は、自らを特別縁故者であると主張して、家庭裁判所へ相続財産分与の申立をしなければなりません。分与を求める人から申立をする必要があります。
申立は、相続開始地(被相続人の住所地)の家庭裁判所に行います。
申立期間は、相続人捜索の公告期間の満了からさらに3か月間です。具体的な期間については、官報公告をチェックするという方法もありますが、被相続人の相続財産管理事件を担当している裁判所や相続財産管理人に問い合わせると回答をもらえると思います。
申立書(相続財産分与の審判申立書)には、被相続人との特別の縁故関係について記載し、それを裏付ける証拠資料(手紙、日記、写真など)の写しを添付する必要があります。
3 特別縁故者にあたるのはどのような人か
法律上は、特別縁故者にあたる者として、
- ①被相続人と生計を同じくしていた者
- ②被相続人の療養看護に努めた者
- ③その他被相続人と特別の縁故があった者
という3つの場合が定められていますが、①と②は例示であり、どのような者が特別縁故者にあたるかどうかは、個々の事案における裁判所の具体的判断に委ねられています。
(1)被相続人と生計を同じくしていた者
a内縁配偶者
「被相続人と生計を同じくしていた者」の典型例です。
内縁の妻の場合と内縁の夫の場合があります。
重婚的内縁関係の場合は、公序良俗に反する法律状態を容認するに等しいとして、分与の相当性を否定した裁判例もありますが、法律婚が破綻・形骸化しており、重婚的内縁関係の方が夫婦と同視しうるような実体を伴っており、長期間継続しているというような場合もあり、裁判実務も個々の事案ごとに判断されているものと思われます。
b事実上の養子
内縁配偶者と並ぶ「被相続人と生計を同じくしていた者」の典型例です。
c事実上の養親~伯叔父母
親子同然に生活してきたような場合があります。
d継親子
事実上の養親子関係とみられる関係がある場合があります。
亡継子の子という場合もあり得ます。
e亡き長男の妻
f相続放棄者
g未認知の非嫡出子
(2)被相続人の療養看護に努めた者
「被相続人の療養看護に努めた者」については、「被相続人と生計を同じくしていた者」が被相続人の療養看護にあたるのが通常でしょうから、「療養看護」だけが表に出る例は、実際にはあまり多くはないようです。
身寄りのない者に対して献身的な世話をした隣人、報酬以上に献身的な療養看護に努めた付添人がこれにあたります。
特別縁故者であると認められた例としては、以下の裁判例があります。
- ・申立人が被相続人のいとこの子(5親等の血族)であり、何かにつけて被相続人の老後の相談相手となり、心臓病を患っていた被相続人の看護に尽くし、被相続人の死亡後は葬祭一切を執行し、同家の祭祀を主宰してきたし以後も継続するつもりであるという事案
- ・申立人が看護師(看護婦)であり、戦時中に外地で被相続人と出会い親しくなったが、内地へ引揚げ後も親密な交際を続け、被相続人の実母の負傷の際にはその看護をし、被相続人が病気で倒れてからは、その求めに応じて被相続人宅に同居し、以後十数年、病院勤務をしながら看病や身の回りの世話をしたという事案
- ・成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係がある場合は、特別縁故者として認められるための根拠の一つとなるとされた事案
- ・被相続人に付添看護婦として雇用され正当な報酬を受けていた者は、原則として特別縁故者とは認められないが、対価としての報酬以上に献身的に療養看護に尽したなどの特別の事情がある場合は、例外的に特別縁故者に該当すると言いうるとされた事案
(3)その他被相続人と特別の縁故にあった者
どのような場合にこれに該当するかについては、個別的、具体的に判断するしかないということになりますが、判断基準については、以下の二つの要素が指摘されています。
- a客観的な関係性
- 「被相続人と生計を同じくしていた者」という類型や「被相続人の療養看護に努めた者」という類型の場合に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者であること
- b主観的な被相続人の意思
- 相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者であること
通常の交際の範囲を超えない場合は、特別縁故者であるとは認められません。
4 縁故関係の存在は何時の時点で必要か(過去の一時期の縁故と死後縁故)
特別縁故者と認められるかについて、何時の時点での被相続人との縁故関係が必要かという問題があります。
- (1)過去の一時期の縁故
- 被相続人の死亡時に縁故関係はなかったものの、過去の一時期に縁故関係があったという場合は、被相続人との間の具体的・現実的な交渉状況や被相続人の意思の推測の結果により、必ずしも否定的に解されるわけではないといえます。
- (2)死後縁故
- 被相続人の死後の縁故について、被相続人とその生前に縁故関係があった者について死後の縁故も合わせて考慮し、特別縁故関係の有無を判断することは差し支えないとされていますが、被相続人との縁故がその死後に限られている場合、特別縁故関係が認められ得るかが問題となります。いわゆる「死後縁故」の問題です。
被相続人の死後に、葬儀、祭祀法事を執り行ったり、遺産を管理していたような場合に問題となります。
この問題については、概ねに否定的に、つまり特別縁故者にはあたらないと解されているのが現在の実務の取扱いであると思います。
被相続人の死亡後、葬儀、祭祀法事費用などが支払われた場合の処理については、相続財産管理人の選任後、家庭裁判所が相続財産管理人の申立により、権限外行為許可審判を出して支払いがなされるという処理がされるのが通常です。
5 特別縁故者となる資格
- (1)法人や団体
- 被相続人の生前の言動や生活状況などから、その遺産を被相続人と関係の深かった法人や団体などに寄附して欲しいという意思(遺志)がうかがわれる場合があります。有効な遺言書が作成されており、そこでそのような意思(遺志)が具体化されていればよいのですが、遺言書がない場合や自筆証書遺言が方式不備のため無効となる場合もあります。
特別縁故者に法人や団体が含まれうるかについては、株式会社、社団法人、財団法人、宗教法人、学校法人、社会福祉法人、地方公共団体なども特別縁故者となり得る資格を有すること自体は否定されません。
しかし、現在の実務では、生前の生活状況や言動から被相続人の意思を推測するだけなく、現実的な縁故関係の有無・内容を具体的に検討して特別縁故者性を判断しているものが多いようにみられます。 - 自分の遺産を関係の深い法人や団体に寄附したいという場合には、有効な遺言書を作成しておくということが最優先で検討されるべき方法です。
- (2)特別縁故者にあたるとみられる者が死亡した場合
- 申立てをせずに死亡した場合は、その相続人が申立をすることはできませんが、申立後に死亡した場合は、その相続人がその地位を相続により承継すると考えられます。
- (3)相続放棄をした相続人
- 被相続人が死亡した時に、被相続人に資産はあるものの、負債はあるのか、あるとしてどの程度の負債があるのか見当がつかない場合があります。このような場合に、いったん相続放棄をしてしまったものの、相続債権者や受遺者に弁済をした後、まだ相続財産に余りがある場合に、国庫帰属の前の段階で、相続放棄をした相続人が特別縁故者として相続財産の分与を求めることができるかという問題があります。
この問題については、本来、負担やリスクを伴う限定承認という手続を行うべきであるにもかかわらず、そのような手続を取らなかったことを考慮して特別縁故者になり得るとすることに疑問を呈する見解もありますが、一般的には、法律上特に制限がない以上、相続放棄をした相続人も特別縁故者となり得ると解されているようです。
ただ、特別縁故者と認められるためには、単に相続人であるということのみでは足りず、相続人でない者と同様に、具体的、現実的な縁故関係の有無や程度によって特別縁故者となるかどうか判断されることになります。 - (4)特別縁故者の数
- 特別縁故者は1人に限定されないが、複数の者が申立てをした場合は1人あたりの縁故が希薄化されて特別縁故の認定に影響する可能性がないとはいえません。
6 相続財産の分与の審判
相続財産分与の申立があったときは、家庭裁判所からその旨が相続財産管理人に通知されます。
通知を受けた相続財産管理人は、申立人が特別縁故者にあたるかどうか、分与の相当性、分与の内容や程度などについて事実関係と理由を記載した意見書を作成し、家庭裁判所に提出します。その後、申立人からの意見書に対する反論、相続財産管理人からの再反論などを経て、家庭裁判所が申立期間が経過した後に、申立に対する審判を行います。
申立人が特別縁故者にあたる場合、家庭裁判所は分与を認めるのが相当かどうか、全部分与にするか、一部分与にするかを判断します。分与の判断は家庭裁判所の裁量に委ねられることになります。
7 分与される財産(分与の対象となる財産)は
- (1)現金
- 分与の対象となります。
- (2)宅地や居宅などの不動産
- 分与の対象となります。
- (3)農地、採草放牧地
- 農業委員会の許可なく分与が可能です。
- (4)共有持分
- 共有者の1人が相続人なしに死亡したときはその共有持分は法律上当然に他の共有者に移転するとの規定がありますが(民法225条)これは、特別縁故者への財産分与がされず、承継すべき者のいないまま相続財産として確定したときに初めて適用されます。特別縁故者の相続財産の分与の制度が優先します。
- (5)賃借権
- 使用借権と違って死亡により消滅する権利ではないので、分与の対象となります。
- (6)知的財産権
- 著作権は分与の対象となりますが、特許権は分与の対象とはなりません。
8 分与の実行
不動産については、分与を受ける特別縁故者は、審判に基づいて単独で登記申請をすることができます。
現金や動産については、分与を受ける特別縁故者は、相続財産管理人から現金の支払いや動産の引渡しを受けることになります。
9 弁護士に頼めることと弁護士に依頼するメリット
特別縁故者にあたるかどうか、分与の相当性については、主張を法律的に整理して、主張を根拠づける資料を選別・整理して有効に提出することが必要です。また、特別縁故者に対する財産分与の申立自体が裁判手続にあたるものです。
この手続については、専門家である弁護士に手続を依頼することができます。
当事務所では、弁護士(菅野)が相続財産管理人に選任された数多くの経験があり、特別受益者に対する相続財産分与の事件についても何件もの経験を有していますので、有益なサポートをさせていただけると思います。
10 弁護士費用(料金表)
【相談料】
30分 5500円(消費税込)
初回(30分)は無料
出張相談の場合
出張相談にも対応可能です。
相談料のほかに、移動時間30分につき出張日当5500円(消費税込)
【弁護士費用】
- 特別縁故者に対する相続財産分与の申立の代理
- 着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。
※上記の金額には事件処理のための実費(印紙、郵券、交通費、通信費、謄写費用、鑑定費用など)は含まれません。
※着手金・報酬金の計算(消費税込)
- 経済的利益が300万円以下の場合
- 着手金8.8%(消費税込) 報酬金17.6%(消費税込)
- 経済的利益が300万円超、3000万円以下の場合
- 着手金5.5%+9.9万円(消費税込) 報酬金11%+19.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3000万円超、3億円以下の場合
- 着手金3.3%+75.9万円(消費税込) 報酬金6.6%+151.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3億円超の場合
- 着手金2.2%+405.9万円(消費税込) 報酬金4.4%+811.8万円(消費税込)
(備考)
弁護士費用の支払いにつきましては、事案の内容やご事情に応じて、当初の費用(着手金)の割合を少なくして解決時に報酬金でその分を精算する、事案の内容によって減額する、分割払いとする等、依頼者の方のご負担を考慮して柔軟に対応しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。