後見、保佐、補助
1 どのような場合に利用されるか
(1)認知症となった高齢の家族を介護する立場になったり、場合によっては病気や不慮の事故が原因となって判断能力を失ったりすることなどは、身近で起こりうる問題です。
認知症、知的障害、精神障害などにより物事を判断する能力が十分でない方について、本人の権利を守る援助者を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度が後見・保佐・補助の制度です。
- (2)制度が利用されるのは、次のような場合です。
- ・遺産相続が発生したが、相続人の中に認知症の人がいるため、このままでは遺産分割協議が有効にできない。
- ・一人暮らしの親が一人では生活できなくなってきたので、親の自宅を売却して老人ホーム等の施設へ入所させたいと思うが、判断能力が衰えてきているため自分では契約できない。
- ・親の判断能力が衰えてきているが、一人暮らしのため、悪質な訪問業者の勧誘を断りきれず、高額な商品を購入してしまう。
- ・身内が不慮の交通事故にあって重症を負い、意思表示ができなくなったため、今後、賠償の請求、示談交渉、裁判等の手続ができない。
- ・まだ判断能力は衰えていないが、身寄りがないので、今から判断能力が衰えたときに備えて、信頼できる人に任意後見人への就任をあらかじめ頼んでおきたい(任意後見の場合)
2 制度の内容
- (1)成年後見
- 判断能力が欠けているのが通常の状態の人が対象となります。
自分の財産を管理・処分できない程度に判断能力が欠けている状態、例えば、日常の必要な買い物も自分ではできず誰かに代わってやってもらう必要がある程度の状態にある人がこれにあたります。
後見が開始されると成年後見人が選任されます。
成年後見人は,本人の行為全般について本人を代理することができ(包括的代理権)、本人が行った行為を取り消すこともできます(取消権)。
なお、法定後見には、成年後見のほか、未成年者を対象とする未成年後見があります。 - (2)保佐
- 判断能力が著しく不十分な人が対象となります。
判断能力が著しく不十分で、自分の財産を管理・処分するには常に援助が必要な程度の人、例えば、日常の必要な買い物程度は自分でできますが、不動産、自動車の売買や自宅の増改築、金銭の貸し借り等、重要な財産行為は自分ではできないという程度の判断能力の人がこれにあたります。
保佐が開始されると保佐人が選任されます。
本人が行う一定の重要な財産行為については保佐人の同意が必要とされ(同意権)、本人がこれらの行為を保佐人の同意を得ないで行った場合は、本人又は保佐人は取り消すことができます(取消権)。
必要があれば、家庭裁判所は、保佐人に本人を代理する権限を与えたり(代理権)、同意権の対象行為を拡張することができます(同意権の拡張)。 - (3)補助
- 判断能力が不十分な人が対象となります。
判断能力が不十分で、自分の財産を管理・処分するには援助が必要な場合があるという程度の人、例えば、重要な財産行為は自分でできるかもしれないが、できるかどうか心配があるので、自分の利益のためには誰かに代わってやってもらった方がよい程度の人がこれにあたります。
補助が開始されると補助人が選任されます。
補助を開始するには、本人の同意が必要です。
補助人には、本人を代理する権限(代理権)や本人が取引等をすることについて同意をする権限(同意権)を与えることができます。代理権や同意権の範囲・内容は、家庭裁判所が個々の事案において必要性を判断した上で決定します。補助人に同意権が与えられた場合は、本人または補助人は、本人が補助人の同意を得ないでした行為を取り消すことができます。 - (4)任意後見
- 判断能力が低下した場合に備えて本人があらかじめ公正証書による委任契約を締結して任意後見人となる人とその権限の内容を定めておき、判断能力が低下した場合に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで契約の効力を生じさせるものです。
家庭裁判所が任意後見契約の効力を生じさせることができるのは、本人の判断能力が少なくとも補助に該当する程度以上に不十分な場合です。
任意後見人には、契約で定められた(公正証書の代理権目録という形で定められている場合が多いです)代理権のみが与えられます。
3 成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)、任意後見人の職務
- (1)財産管理に関する職務
- (ⅰ)成年後見人
- 成年後見人に与えられる代理権は、本人の財産行為全般に広く及びます。
以下のような場合は、代理権が一定の制限を受けます。 - ・居住用不動産を処分する場合
- ・本人の行為を目的とする債務を負担する場合
- ・後見監督人の同意を要する場合
- ・後見人と本人との利益が相反する場合
- ・身分行為の代理
- (ⅱ)保佐人
- 保佐人には、民法13条1項に定められた重要な財産に関する一定の行為について同意権が与えられます。
保佐人には当然に代理権が与えられるものではありませんが、本人の保護の必要性に応じて、家庭裁判所は、本人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。代理権を付与する審判を行うには本人の同意が必要です。
保佐人は、付与された代理権の範囲で本人の財産を管理する権限を持つことになります。
代理権が一定の制限を受けるのは成年後見人の場合と同様です。 - (ⅲ)補助人
- 補助人の同意を要する行為を定める審判により、同意権の範囲が決められます。同意を要する行為は民法13条1項に定められた行為の一部に限られます。
補助人には当然に代理権が与えられるものではありませんが、本人の保護の必要性に応じて、家庭裁判所は、本人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができます。代理権を付与する審判を行うには本人の同意が必要です。
補助人は、付与された代理権の範囲で本人の財産を管理する権限を持つことになります。
代理権が一定の制限を受けるのは成年後見人の場合と同様です。 - (ⅳ)任意後見人
- 任意後見人は、公正証書で定められた代理権の範囲で本人の財産を管理する権限を持つことになります。
- (v)リバースモーゲージの問題
- リバースモーゲージとは、本人が所有している自宅に担保を設定して金融機関等から継続的な金銭消費貸借契約に基づいて毎月の生活資金の融資を受け、本人が死亡した場合に担保不動産を処分して返済する融資の形態をいいます。
本人がリバースモーゲージを利用する場合には、成年後見人は、居住用不動産の処分(担保の設定)の許可を家庭裁判所から受ける必要があります。
保佐人、補助人に不動産処分の代理権が与えられている場合も同様です。
任意後見人については、不動産処分の代理権が公正証書で定められた代理権の範囲に入っているかによります(家庭裁判所の許可は不要です)。
- (2)身上監護に関する職務
- (ⅰ)身上配慮義務
- 成年後見人等の職務には、財産管理に関する職務のほかに、身上監護に関する職務があります。
このような身上監護に関する職務の存在を前提に、身上監護の充実の観点から成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人には、本人の身上に配慮してその事務を遂行すべき一般的責務を果たすことが求められており、本人の心身および生活の状況に配慮すべき身上配慮義務が課されています。 - (ⅱ)身上監護事務の具体例
- ①介護、生活維持に関する事項
- 介護保険法に基づく介護保険の認定申請、ケアプランの検討、介護サービスの締結、生活用品の手配、公共料金の支払いなど
- ②住居の確保に関する事項
- 地代・家賃の支払い、賃貸借契約の更新・更新料の支払い、固定資産税の支払い、修繕に関する請負契約の締結など
- ③施設の入退所、処遇の監視に関する事項
- 施設の見学・情報収集、施設の入退所契約の締結、施設訪問・本人との面会による生活状態の把握、介護サービス事業者への苦情申出など
- ④医療に関する事項
- 医療契約の締結、医療費の支払いなど
- ⑤教育、リハビリに関する事項
- 学校や施設の見学・情報収集、入学・入所契約・施設利用契約の締結、学費・施設費・施設利用料の支払い、通学状況・入所状況・施設利用状況の確認など
- (ⅲ)事実行為としての介護
- 身上配慮義務は、成年後見人等の事務である生活、療養看護または財産の管理に関する法律行為を行う際の注意義務ですから、法律行為に当然伴う事実行為以外の介護労働(現実の介護行為)などの事実行為を含むものではありません。
- (ⅳ)医療行為に関する同意の問題
- 成年後見人等が行う身上監護に関する職務は、身上監護に関する法律行為を行うことであり、介護労働(現実の介護行為)や本人の身体に対する強制を伴う事項は含まれていないことから、診療契約締結に関する代理は可能ですが、個別の医療行為に対する同意はできないと考えられています。
4 成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)、任意後見人の選任手続
- (1)成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)
- (ⅰ)申立と審判
- 成年後見開始、保佐開始、補助開始の審判が申し立てられ、審判の結果、開始の審判をするときは、家庭裁判所は職権で、成年後見人、保佐人、補助人を選任する審判をします。
- (ⅱ)申立をする裁判所
- 本人(被後見人、被保佐人、被補助人となるべき人)の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。
- (ⅲ)申立ができる人
- 本人、配偶者、4親等内の親族、成年後見人等、任意後見人,任意後見受任者、成年後見監督人等、市区町村長、検察官です。
- (ⅳ)申立に必要な書類
- ・後見・保佐・補助開始申立書
- ・申立事情説明書
- ・親族の同意書
- ・後見人等候補者事情説明書
- ・財産目録
- ・収支状況報告書
- ・親族関係図
- ・診断書(成年後見制度用)
- ・診断書付票
- ・本人情報シート(コピー)
- ・愛の手帳のコピー(交付されている場合のみ)
- ・本人の戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)
- ・本人の住民票または戸籍の附票
- ・本人が登記されていないことの証明書
- ・財産関係の資料(該当する財産がないものは不要)
- ・預貯金通帳のコピー,保険証券・株式・投資信託等の資料のコピー
- ・不動産の全部事項証明書
- ・負債の資料のコピー
- ・収入・支出に関する資料のコピー
- (ⅴ)審理、審判
- 本人の判断能力の程度について診断書や鑑定をもとに調査し、成年後見人等の候補者があげられている場合はその人の適格性について審査がされます。
審理の結果、成年後見等を開始するのが相当と判断されれば、家庭裁判所は、成年後見等開始の審判と成年後見人等選任の審判を行います。
成年後見人等は、成年後見等開始の審判の際に、家庭裁判所が、本人の心身の状態、生活・財産の状況や候補者と本人との利害関係の有無、本人の意向などの事情を総合して職権で選任します。申立書に記載した候補者が必ず選任されるとは限りません。
家庭裁判所は本人の財産管理をより適正に行う観点から、専門的な知見を有する専門職が関与する必要があると判断した場合には、弁護士や司法書士等といった専門家を成年後見人等に選任したり、このような専門家を成年後見等監督人として選任することがあります。 - (ⅵ)登記
- 成年後見等開始の審判が確定すると、裁判所書記官が、登記の嘱託を行い、登記がなされます。登記事項証明書が成年後見人等の資格証明書となります。
- (ⅶ)後見制度支援信託、後見制度支援預金
- 成年後見開始事件(保佐、補助、任意後見では不可)について、預貯金等の流動資産が一定額(東京の場合は500万円以上)の場合は、家庭裁判所から後見制度支援信託、後見制度支援預金の利用の検討を求められることがあります。
これらは,本人の財産のうち、日常的な支払をするのに必要十分な金銭を預貯金等として成年後見人が管理し、通常使用しない金銭を信託銀行等に信託し、または信用金庫・信用組合の後見制度支援預金口座に預け入れて、その払戻等には家庭裁判所が発行する指示書を必要とすることで、本人の財産の保護を簡易・確実に行うための仕組みです。
家庭裁判所が利用に適すると判断した事案については、信託・後見制度支援預金口座への預入れが行われるまで、専門職が成年後見人として関与することになります。
- (2)任意後見人
- (ⅰ)任意後見監督人選任の審判
- 家庭裁判所は、任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害(認知症,知的障害,精神障害など)によって、本人の判断能力が不十分な状況にあるときは任意後見監督人を選任することができます。
任意後見監督人の選任によって任意後見契約の効力が生じ、契約で定められた任意後見人が、任意後見監督人の監督の下に契約で定められた特定の法律行為を本人に代わって行うことができます。
本人以外の請求により任意後見監督人選任の審判をするには、本人が意思表示できないときを除き、本人の同意を得る必要があります。 - (ⅱ)申立をする裁判所
- 本人(任意後見契約の本人)の住民票上の住所地を管轄する家庭裁判所です。
- (ⅲ)申立ができる人
- 本人(任意後見契約の本人)、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者
- (ⅳ)申立に必要な書類
- ・申立書
- ・本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- ・任意後見契約公正証書の写し
- ・本人の成年後見等に関する登記事項証明書
- ・本人の診断書(家庭裁判所が定める様式のもの)
- ・本人の財産に関する資料
- ・不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)
- ・預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し,残高証明書等)等)
- ・任意後見監督人の候補者がある場合にはその住民票または戸籍附票、任意後見監督人の候補者が法人の場合には当該法人の商業登記簿謄本
(v)任意後見監督人
- 任意後見監督人は、任意後見人が任意後見契約の内容どおり適正に仕事をしているか、任意後見人から財産目録などを提出させるなどして監督します。
本人と任意後見人の利益が相反する法律行為を行うときには、任意後見監督人が本人を代理します。
任意後見監督人は、その事務について家庭裁判所に報告するなどして家庭裁判所の監督を受けることになります。
任意後見監督人には、本人の親族等ではなく、第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士、税理士等の専門職や法律、福祉に関わる法人など)が選ばれることが多くなっています。 - (ⅵ)法定後見(成年後見等)制度との関係
- 任意後見契約の内容だけでは本人が保護できない場合には、本人の利益のために特に必要があると認められるときに限り、法定後見制度(成年後見等)を利用することができます。
任意後見監督人が選任される前に成年後見開始等の審判がされた場合には、任意後見契約の効力は失われませんが、任意後見監督人が選任された後に成年後見開始等の審判がされた場合には、任意後見契約は終了します。
5 弁護士に頼めることと弁護士に依頼するメリット
成年後見、保佐、補助については、申立に多くの書類を提出することが求められます。家庭裁判所への申立手続を専門家である弁護士に依頼することもできます。家庭裁判所への申立の手続の代理人を弁護士に依頼すると、裁判所へ提出する書類の作成は弁護士が行ってくれます。作業が楽になるだけでなく、迅速に手続が進み、その後の手続に役立ちます。
また、成年後見人、保佐人、補助人を特定の弁護士に依頼したい場合には、申立にあたって、その弁護士を成年後見人、保佐人、補助人の候補者として申立をすることもできます。全くの第三者が選任されるよりも安心感を得られるものと思います。当事務所でもこのような形で申立をして成年後見人等に選任されている案件があります。
任意後見人については、公正証書の文案作成、任意後見人への就任を、ご自身の意思で頼みたいと思っている弁護士に依頼することができます。つまり、判断能力が失われた後も、ご自身で選任した弁護士に以後の財産管理等をしてもらうことが可能になります。任意後見については、見守り契約(安否確認、法律相談など)、財産管理契約、死後事務委任契約(葬儀、埋葬など)とセットで特定の信頼できる弁護士に依頼することも可能です(ホームロイヤーと言われています)。
まずは、法律相談を受けるなどして、信頼できる弁護士かどうかを見極めてから、その後、具体的に依頼するかどうかを検討されるとよいと思います。
6 弁護士費用(料金表)
【相談料】
30分 5500円(消費税込)
初回(30分)は無料
出張相談の場合
出張相談にも対応可能です。
相談料のほかに、移動時間30分につき出張日当5500円(消費税込)
【弁護士費用】
- 成年後見、保佐、補助の申立の代理
- 16.5万円(消費税込)~
- 任意後見契約
- 公正証書文案作成費用
- 11万円(消費税込)~
- 任意後見人報酬
- 月額2.2万円(消費税込)~
資産の額、職務の内容等に応じて協議により定める額
- 見守り契約
- 月額5500円(消費税込)~
安否確認・法律相談の頻度、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 財産管理契約
- 月額2.2万円(消費税込)~
管理する財産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 死後事務委任契約
- 11万円(消費税込)~
職務の内容等に応じて協議により定める額
- 遺言書の作成
- 22万円(消費税込)~
定型的なものか、遺産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 遺言執行費用
- 33万円(消費税込)~
遺産の額、不動産の売却があるか、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
遺言執行に裁判手続を要する場合は、別途裁判手続に要する弁護士費用がかかります。
その他については、個別にお問い合わせください。
※上記の金額には事件処理のための実費(印紙、郵券、交通費、通信費、謄写費用、鑑定費用など)は含まれません。
(備考)
弁護士費用の支払いにつきましては、事案の内容やご事情に応じて、分割払いとする等、依頼者の方のご負担を考慮して柔軟に対応しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。