遺産の範囲と調査
1 遺産と遺産分割の対象財産
被相続人が死亡すると相続が開始します。
被相続人が相続開始時に有していた財産的権利義務=遺産は、被相続人の一身に専属するものを除いてすべて相続の対象となり、相続の開始によって相続人に承継されます。
しかし、以下のように、相続の対象となる遺産すべてが遺産分割の対象となるわけではなく、遺産の範囲と遺産分割の対象財産の範囲は一致しません。
- ① 遺産のうち遺産分割の対象から除かれるもの
- 預貯金以外の金銭債権(損害賠償請求権など)、金銭債務など
- ② 遺産に含まれないが、遺産分割の対象としてよいか問題となるもの
- 代償財産、遺産から生じた賃料などの果実・収益、葬式費用、遺産の管理費用など
2 遺産の調査の方法
相続人が必ずしも、被相続人の遺産のすべてを把握できているわけではありません。
また、一部の相続人が遺産の内容を開示しない場合もあります。
被相続人の遺産を把握・特定する手掛かりになるものとしては、以下のものがあげられます。
- (1)自宅にある被相続人の持ち物
- 自宅にある被相続人の持ち物の中にある遺産に関する資料から遺産を把握・特定することができます。
- (2)被相続人宛の郵便物
- 金融機関、保険会社や証券会社からの郵便物、固定資産税の納税通知書など遺産に関する郵便物が送られてくることがあります。また、債務に関する郵便物が送られてくることもあります。
- (3)貸金庫
- 金融機関の貸金庫に遺産そのもの(現金等)や遺産に関する資料が保管されていることがあります。
貸金庫の存在は、預金の記帳内容から貸金庫の費用が引き落とされていることで判明することもあります。貸金庫の開披と格納品の搬出には金融機関から相続人全員の立ち会いが求められます。 - (4)遺言書
- 遺言書がある場合は、遺言書の記載によって、遺産を把握・特定する手掛かりを得ることが可能となります。
- (5)相続税の申告書
- 平成27年1月1日以降に相続が開始した場合には、基礎控除が3000万円+相続人の数×600万円となっており、その他の控除をしても、残余がある場合は相続税の申告が必要です。相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月となっていますが、遺産分割が未了の場合でも申告義務はあります。その時点になれば、相続税の申告が必要な相続の場合は、申告書を入手することによって遺産を把握・特定する手掛かりを得ることが可能となります。
他の相続人から遺産の開示を受けられていない相続人にとっては、相続税の申告書はかなり有用な資料となります。 - (6)資料の開示請求
- 金融機関や証券会社等に対して戸籍謄本等を示して相続人であることを明らかにして資料の開示を求めることです。
- (7)弁護士会照会制度
- 依頼者から依頼を受けた弁護士が所属する弁護士会に対し、公務所や公私の団体に照会して必要な報告を求めることができる制度です。金融機関の取引や保険契約の調査などで用いられます。
- (8)調査嘱託
- 家庭裁判所が遺産分割事件等において、必要な調査を官庁、公署その他適当と認める者に嘱託し、または銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めることができる制度です。
実務上は、調査の嘱託は、嘱託を受けた者が調査をし、その結果を審判の資料にすることが有用な場合に行われています。家事調停でも調査の嘱託を行うことができます。 - (9)文書提出命令
- 当事者が裁判所へ申立てることにより、裁判所が、証拠を所持している相手方、または第三者に対して、所持する証拠文書の提出を求める命令のことです。家事調停手続でも、裁判所は文書提出命令を発令することができます。
3 預貯金
- (1)遺産分割の対象となります。
- 預貯金債権が共同相続されたときは、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることなく、遺産共有の対象となり、遺産共有に服する他の財産とともに、遺産分割を経て各相続人に承継されます。
- (2)預貯金については、通帳があればよいのですが、ない場合には、金融機関がわかれば、相続開始時の残高証明書や取引経過を取り寄せることによって遺産の内容を把握することができます。ただ、残高証明だけですと、生前や相続開始後の預貯金の取引内容まではわからないので、取引経過を取り寄せることは有用です。取引経過の記載から他の資産(株式、保険等)の存在が判明することもあります。
取引経過については、共同相続人の1人は、他の相続人の同意がなくても、金融機関に対してその開示を求めることができます。
4 現金
遺産分割の対象となります。
5 株式、社債・国債、投資信託
- (1)遺産分割の対象となります。
- (2)預貯金口座にこれらに関する入出金があったり、証券会社等から通知が来るなどしますので、それらを手掛かりに調査することができます。
6 不動産
- (1)遺産分割の対象となります。
- (2)不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)、公図、ブルーマップ、地積測量図、建物平面図、固定資産税等の納税通知書、名寄帳、固定資産評価証明書、路線図、預貯金通帳の固定資産税等の支払記録で調査をします。
7 不動産賃借権
- (1)遺産分割の対象となります。
- (2)賃貸借契約書、預貯金通帳の賃料の支払記録等で調査をします。
8 動産
- (1)遺産分割の対象となります。
- (2)保管している者の協力が得られないと特定が難しいという問題があります。
9 可分債権
- (1)資金債権、立替金債権、損害賠償請求権など、預貯金以外の金銭債権です。
- (2)遺産分割の対象となりませんが、当事者の合意により遺産分割の対象とすることはできます。
10 遺産から生じた果実・収益
- (1)相続開始から遺産分割までの間に遺産から生じた果実や収益で、相続開始後の不動産の賃料収入などがこれにあたります。
- (2)相続財産そのものではないので遺産分割の対象となりませんが、当事者の合意により遺産分割の対象とすることはできます。
11 代償財産
- (1)相続開始時にあった遺産(不動産など)を共同相続人全員で売却した場合の売却代金などがこれにあたります。
- (2)相続財産そのものではないので遺産分割の対象となりませんが、当事者の合意により遺産分割の対象とすることはできます。
12 葬儀費用
相続開始後に生じたものであり遺産分割の対象となりません。
当事者の合意があれば調停で解決することはできますが、遺産分割審判の対象にはなりません。
13 遺産の管理費用
相続開始後に生じたものであり遺産分割の対象となりません。
当事者の合意があれば調停で解決することはできますが、遺産分割審判の対象にはなりません。
14 生命保険金
- (1)特定の相続人が保険金受取人として指定されている場合
- 指定された者が固有の権利として保険金請求権を取得し、遺産分割の対象にはなりません。
- (2)保険金受取人を単に「相続人」と抽象的にしている場合
- 保険金請求権は相続人固有の権利となり、各保険金受取人は相続分の割合による権利を持ち、遺産分割の対象にはなりません。
- (3)保険金受取人が指定されていない場合
- 保険約款に相続人に支払うとの条項がある場合は、保険金受取人を相続人と指定した場合と同じになり、保険金請求権は相続人固有の権利となり、各保険金受取人は相続分の割合による権利を持ち、遺産分割の対象にはなりません。
- (4)被相続人が自分自身を保険金受取人に指定していた場合
- 養老保険や貯蓄型の保険の満期保険金請求権の場合は、被相続人の財産として遺産分割の対象となります。
15 死亡退職金、遺族年金
遺族の生活保障を目的としたもので、遺族固有の権利であり、遺産分割の対象とはなりません。
16 相続債務
法定相続分に応じて分割されます。
法定相続分と異なる割合による負担をすることを相続人間で決めることはできますが、債権者の同意が必要となります。
17 祭祀財産
遺産分割の対象とはなりません。
系譜、祭具、墳墓といった祭祀財産は、相続財産には算入されず、祖先の祭祀を主宰すべき者が承継します。
18 弁護士に頼めることと弁護士に依頼するメリット
遺産の内容は多岐にわたり、遺産調査の方法にも様々な方法があります。
遺産の調査は相続人が自分でできることもありますが、弁護士会照会制度など弁護士に頼まないとできないこともあります。また、様々なところから多数の資料を取り寄せたり、取り寄せた資料を読み込んで新たな遺産の発見につなげたり、資料から明らかになった遺産を整理して遺産目録を作成することも必要です。物理的にも精神的にも、かなりの手間と負担がかかるというのが実情です。
ご自分で遺産の調査をすることが難しい場合には、専門家である弁護士に手続を依頼することもできます。通常は、弁護士に遺産分割の手続を依頼すると、その手続の一環として遺産の調査をしてくれます。弁護士に遺産の調査を依頼すると、作業が楽になるだけでなく、資料をもれなく迅速に取り寄せることができ、遺産目録も作成してくれますので、その後の手続に役立ちます。
19 弁護士費用(料金表)
【相談料】
30分 5500円(消費税込)
初回(30分)は無料
出張相談の場合
出張相談にも対応可能です。
相談料のほかに、移動時間30分につき出張日当5500円(消費税込)
【弁護士費用】
- 遺産分割手続等を受任する場合の遺産調査の費用は、通常は遺産分割手続等の弁護士費用に含まれます。
- 遺産分割協議書作成
- 11万円(消費税込)~
- 遺産分割協議、調停、審判の代理
着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。- 遺留分減殺請求、遺留分侵害請求
着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。- 遺言書の作成
- 22万円(消費税込)~
定型的なものか、遺産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 遺言執行費用
- 33万円(消費税込)~
遺産の額、不動産の売却があるか、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
遺言執行に裁判手続を要する場合は、別途裁判手続に要する弁護士費用がかかります。
- 相続放棄
- 11万円(消費税込)
- 限定承認
- 33万円(消費税込)~
遺産・負債の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
その他については、個別にお問い合わせください。
※上記の金額には事件処理のための実費(印紙、郵券、交通費、通信費、謄写費用、鑑定費用など)は含まれません。
※着手金・報酬金の計算(消費税込)
- 経済的利益が300万円以下の場合
- 着手金8.8%(消費税込) 報酬金17.6%(消費税込)
- 経済的利益が300万円超、3000万円以下の場合
- 着手金5.5%+9.9万円(消費税込) 報酬金11%+19.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3000万円超、3億円以下の場合
- 着手金3.3%+75.9万円(消費税込) 報酬金6.6%+151.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3億円超の場合
- 着手金2.2%+405.9万円(消費税込) 報酬金4.4%+811.8万円(消費税込)
(備考)
弁護士費用の支払いにつきましては、事案の内容やご事情に応じて、当初の費用(着手金)の割合を少なくして解決時に報酬金でその分を精算する、事案の内容によって減額する、分割払いとする等、依頼者の方のご負担を考慮して柔軟に対応しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。