相続人の範囲と調査
1 遺産分割の当事者となるのは誰か
遺産分割の当事者となるのは、①相続人、②包括受遺者、③相続分の譲受人です。
遺産分割の当事者となる者は通常は①相続人ですが、②包括受遺者や③相続分の譲受人として相続人以外の第三者でも遺産分割の当事者となる場合があります。
②包括受遺者とは、遺言で財産の全部又は一部を一定の割合で示して遺贈することを包括遺贈といいますが、その遺贈を受けた者のことです。例えば、遺言で全遺産の3分の1をXに包括して遺贈するとされた場合のXがそれにあたります。
③相続分の譲受人とは、遺産全体に対する相続人の割合的な持分(包括的持分)の譲渡を受けた者をいいます。
2 相続人とは
相続人とは、被相続人の相続財産を包括的に承継することができる一般的資格を持つ人のことをいいます。
相続人には、(1)配偶者相続人と(2)血族相続人がいます。
- (1)配偶者相続人
- 配偶者は、常に血族相続人とともに、血族相続人がいないときは単独で、相続人となります。
- (2)血族相続人
- a相続順位
- 第1順位 子またはその代襲相続人
- 第2順位 直系尊属(親等の異なる直系尊属の間では親等の近い者)
- 第3順位 兄弟姉妹またはその代襲相続人
- b法定相続分
相続人 | 配偶者の相続分 | 血族相続人の相続分 |
---|---|---|
配偶者と子 | 2分の1 | 2分の1複数の場合は同順位で均等 |
配偶者と直系尊属 | 3分の2 | 3分の1同順位が複数の場合は均等 |
配偶者と兄弟姉妹 | 4分の3 | 4分の1複数の場合は同順位で均等親の一方のみを共通にする半血兄弟姉妹は全血兄弟姉妹の半分 |
- c代襲相続
- 相続人となる者が相続開始前に死亡したり、相続欠格・廃除によって相続権を失ったときは、その相続人の直系卑属(子や孫など)がその相続人に代わって相続人となります。
代襲相続が発生するのは、相続人となる者が、被相続人の子、兄弟姉妹の場合に限られます。
被相続人の子に代襲相続原因が発生すれば、被相続人の孫が代襲相続人となり(代襲相続)、被相続人の孫に代襲相続原因が発生すれば、被相続人のひ孫が代襲相続人となります(再代襲相続)。
しかし、兄弟姉妹の代襲相続人については、再代襲相続はできません(甥や姪まで)。 - d養子
- 普通養子は、養親と実親の双方に対して相続権を持ちます。
- 特別養子は、養親に対してのみ相続権を持ちます。
3 相続資格が変動する場合
- (1)相続欠格と相続廃除
- これらの場合は相続資格が剥奪されます。
- ①相続欠格とは、遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿するなど、法の定める欠格事由に該当した場合に、当然に相続権を失う制度です。
- ②相続廃除(推定相続人の廃除)とは、遺留分のある推定相続人(配偶者、子、直系卑属)に被相続人への虐待、重大な侮辱、その他著しい非行があった場合に、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を喪失させるものです。
- (2)単純承認、限定承認、相続放棄
- 相続をするかどうかについては、一定の期間(3か月の熟慮期間)内に、相続人に選択をする自由が認められています。
- ①単純承認
- 相続人が、被相続人の一切の権利義務(一身専属権を除く)を包括的に承継することをいいます。
- ②限定承認
- 相続した財産の範囲内で相続債務を弁済し、余剰があれば相続する制度です。
- ③相続放棄
- 相続人が相続開始による包括承継の効果を全面的に拒否する意思表示をいいます。
- (3)相続分の譲渡、相続分の放棄
- ①相続分の譲渡
- 相続人が、遺産全体に対する包括的持分や法律上の地位を譲渡することをいいます。
相続分の譲渡によって、遺産全体に対する割合的持分が譲受人に移転します。相続分全部の譲渡の場合は、譲渡人は遺産分割手続から離脱します。譲受人が第三者である場合は遺産分割手続に新たに参加することになります。 - ②相続分の放棄
- 相続人が、その相続分を放棄することをいいます。
相続分の放棄をすることにより遺産分割手続から離脱します。
相続放棄をした者は、その相続に関して初めから相続人とならなかったものと扱われるのに対して、相続分の放棄をした者は、相続人の地位を失うことはなく、相続債務に対する責任を負うという違いがあります。
4 相続人がいない場合
相続人のいることが明らかでない場合には、相続財産自体が法人とみなされます。相続財産を管理、換価、精算してもらうためには、家庭裁判所に相続財産管理人を選任してもらう必要があります。
内縁配偶者、事実婚やパートナーシップの当事者には相続権は認められませんが、相続人がおらず、相続債務を弁済してもなお遺産が残るような場合には、相続財産管理人選任の申立をした上で、特別縁故者への相続財産分与の申立をして、相続財産の全部または一部の分与を受けることができる可能性があります。
5 相続人の調査
遺産分割手続を行うためには、①相続人が誰であるかを調査・確定すること、②相続人の住所を調査・確認すること、③相続人に意思能力や所在不明等の問題がないかどうかを確認し、必要な対応をすることが必要となります。
- (1)相続人が誰であるかを調査・確定すること
持っている情報を手掛かりにして、戸籍等を取り寄せて調査、確定をします。
取り寄せる必要のある書類は、以下のとおりです。
- ・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- ・相続人全員の戸籍謄本
- ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している者がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- ・血族相続人が直系尊属(第二順位相続人)の場合で、直系尊属に死亡している者がいる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- ・相続人が被相続人の配偶者のみの場合、または血族相続人が兄弟姉妹及びその代襲者(甥・姪)(第三順位相続人)の場合は、以下のもの
- ・被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- ・被相続人の兄弟姉妹に死亡している者がいる場合,その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- ・代襲者としての甥・姪に死亡している者がいる場合,その甥または姪の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
- (2)相続人の住所を調査・確認すること
- 相続人の連絡先、相続手続に関する書類の記載事項として必須の事項です。
相続人全員の住民票または戸籍の附票を取り寄せることによって調査・確認します。 - (3)相続人に意思能力や所在不明等の問題がないかどうかを確認し、必要な対応をすること
- 戸籍や住民票等の記載内容、連絡に対する反応や対応、関係者から得られた情報、現地調査等によって相続人の状況を確認し、状況に応じて以下のような対応を取る必要がある場合があります。
- ①相続人の意思能力に問題がある場合
- 成年後見人等の選任を受けて遺産分割をすることになります。
- ②相続人に未成年者がいる場合
- 親権者等の法定代理人が遺産分割を行います。
- 法定代理人と未成年者がともに相続人である場合や、法定代理人(例えば親)が複数の未成年者(子)である相続人に対する法定代理人である場合は、利益相反となりますので未成年者のために特別代理人の選任が必要となります。
- ③相続人に所在不明の者がいる場合
- 相続人に従来の住所または居所を去って容易に帰ってくる見込みがない者(任意の財産管理人も法定代理人もいない者)がいる場合は、不在者財産管理人の選任を受け、不在者財産管理人が遺産分割を行うことになります。
- 相続人の生死が不明な場合は、一定の要件のもとに失踪宣告を受けて法律上死亡したものとみなされることにより遺産分割手続を進めることができます。
6 弁護士に頼めることと弁護士に依頼するメリット
相続人調査をするためには、被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本をはじめとして、多くの戸籍謄本等を取り寄せる必要があります。
これらを取り寄せるためには、①まず、死亡時に戸籍が置かれていた本籍地の役所から戸籍謄本を取り寄せます。②次に、その戸籍謄本に記載された内容を見て、ひとつ前の戸籍謄本を取り寄せます。③さらに、同じことを繰り返して出生時の戸籍謄本まで取り寄せます。このように戸籍調査は新しいものから古いものへと戸籍をさかのぼっていくことによって行います。
戸籍は、①除籍、②転籍、③改製によって変わります。
- ①除籍とは、結婚、死亡などで戸籍から抜けることをいいます。
- ②転籍とは、転居などに伴って、他の市区町村へ本籍地を変更することをいいます。
- ③改製とは、法改製によって戸籍を作り直すことをいいます。戸籍が改製されると結婚や死亡によって除籍されている人は、改製後の新戸籍には記載されません。改製前の戸籍は「改製原戸籍」として残ります。
このように、結婚、転居、改製等によって戸籍が変わることがあるため、現在の戸籍謄本を取り寄せただけでは、被相続人の婚姻歴や子の有無などの全ては明らかにならないということになります。そのため、相続人の調査には、被相続人の出生時にまでさかのぼって戸籍謄本を取り寄せて調査する必要があるのです。実際に戸籍謄本を取り寄せてみると、被相続人が秘かに認知した子どもがいるとか、養子縁組をしていたという事実が明らかになることもあります。
そして、これらの戸籍謄本を取り寄せる場合は、取り寄せた戸籍が連続していることが必要です。同じ役所でも複数の戸籍が管理されていることもあるため、戸籍謄本の記載を確認し、戸籍が連続しており、抜け落ちているものがないか確認することが必要です。
また、相続人の住所が分からない場合は、それを調べるために戸籍の附票を取り寄せることになります。
相続人調査をすることは相続人が自分でもできますが、物理的にも精神的にも、かなりの手間と負担がかかるというのが実情です。たくさんの戸籍を全部取り寄せなければならず、結婚歴や転籍が複数あったりすると、かなりの量になることがあります。しかも、戸籍謄本は本籍地のある役所に申請をしなければならないため、郵便で順番に取得していくと、時間と手間もかなりかかってしまいます。ひとつ戸籍謄本を取り寄せたら、それを読み取って次にどこの役所へどのような戸籍謄本を取ればよいかの判断をすることも必要になります。
ご自分で戸籍謄本を取り寄せて集めるのが難しい場合には、専門家である弁護士に手続を依頼することもできます。通常は、弁護士に遺産分割の手続を依頼すると、その手続の一環として相続人調査をしてくれます。弁護士に相続人調査を依頼すると、作業が楽になるだけでなく、戸籍謄本をもれなく迅速に取り寄せることができ、被相続人と相続人同士の関係を記載した「相続人関係図」も作成してくれますので、その後の手続に役立ちます。
7 弁護士費用(料金表)
【相談料】
30分 5500円(消費税込)
初回(30分)は無料
出張相談の場合
出張相談にも対応可能です。
相談料のほかに、移動時間30分につき出張日当5500円(消費税込)
【弁護士費用】
- 遺産分割手続等を受任する場合の相続人調査の費用は、通常は遺産分割手続等の弁護士費用に含まれます。
- 遺産分割協議書作成
- 11万円(消費税込)~
- 遺産分割協議、調停、審判の代理
- 着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。
- 遺留分減殺請求、遺留分侵害請求
- 着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。
- 遺言書の作成
- 22万円(消費税込)~
定型的なものか、遺産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 遺言執行費用
- 33万円(消費税込)~
遺産の額、不動産の売却があるか、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
遺言執行に裁判手続を要する場合は、別途裁判手続に要する弁護士費用がかかります。
- 相続放棄
- 11万円(消費税込)
- 限定承認
- 33万円(消費税込)~
遺産・負債の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
その他については、個別にお問い合わせください。
※上記の金額には事件処理のための実費(印紙、郵券、交通費、通信費、謄写費用、鑑定費用など)は含まれません。
※着手金・報酬金の計算(消費税込)
- 経済的利益が300万円以下の場合
- 着手金8.8%(消費税込) 報酬金17.6%(消費税込)
- 経済的利益が300万円超、3000万円以下の場合
- 着手金5.5%+9.9万円(消費税込) 報酬金11%+19.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3000万円超、3億円以下の場合
- 着手金3.3%+75.9万円(消費税込) 報酬金6.6%+151.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3億円超の場合
- 着手金2.2%+405.9万円(消費税込) 報酬金4.4%+811.8万円(消費税込)
(備考)
弁護士費用の支払いにつきましては、事案の内容やご事情に応じて、当初の費用(着手金)の割合を少なくして解決時に報酬金でその分を精算する、事案の内容によって減額する、分割払いとする等、依頼者の方のご負担を考慮して柔軟に対応しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。