相続税
1 相続税とは
相続税とは、相続や遺贈、死因贈与によって財産を受け取った場合に支払う税金です。
遺贈や死因贈与では、財産を受け取る人は相続人だけとは限りませんので、相続人以外の人も相続税の課税対象となり得ます。
2 相続税の計算はどのように行うか
(1)「課税遺産総額」の計算
課税遺産総額=①本来の相続財産
+②みなし相続財産
+③相続開始前3年以内の贈与財産
+④相続時精算課税制度による贈与財産
-⑤非課税財産
-⑥債務控除
-⑦遺産に係る基礎控除
①本来の相続財産
- 預貯金、不動産、有価証券など、被相続人に帰属していた財産上の権利のうち、本来の相続、遺贈または死因贈与によって取得されたもの
- ②みなし相続財産
- 生命保険の死亡保険金、勤務先からの死亡退職金など民法上、相続財産ではありませんが、相続税の課税対象となります。
- ③相続開始前3年以内の贈与財産
- 贈与税の配偶者控除の特例、直系尊属からの住宅取得等資金や教育資金の贈与のうち非課税の特例の適用を受けたものなど、一定の要件を満たすものについては加算されません。
- ④相続時精算課税制度による贈与財産
- 贈与財産の贈与時の価額によって相続税の課税価格が計算・加算されます。
- ⑤非課税財産
- 墓地、祭具等は非課税財産となります。
生命保険の死亡保険金や勤務先からの死亡退職金については、「500万円×法定相続人の数」までが非課税となります。 - ⑥債務控除
- 葬儀費用もこれに含まれます。
- ⑦遺産に係る基礎控除
- 基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
2015(平成27)年1月1日から基礎控除額の引き下げが行われました。それ以前に開始した相続については、基礎控除額=5000万円+(1000万円×法定相続人の数)となっています。
(2)「法定相続人の数」
「法定相続人の数」は、(a)生命保険金等の非課税限度額、(b)退職手当金等の非課税限度額、(c)遺産に係る基礎控除額、(d)相続税の総額の各計算の基礎となる数字です。
民法の規定による相続人の数に関しては、相続税法上は、以下の点に注意が必要です。
- ①相続放棄があった場合
- 相続放棄がなかったものとした場合における相続人の数とします。
- ②養子の数の制限
- 養子の数は以下のように制限されます。
- (ⅰ)被相続人に実子がある場合または被相続人に実子がなく、養子の数が1人である場合1人
- (ⅱ)被相続人に実子がなく、養子の数が2人以上である場合2人
- ③実子とみなされる場合
- 以下の者は実子とみなされます。
- (ⅰ)特別養子縁組による養子となった者
- (ⅱ)被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となった者その他これらに準ずる者として政令で定める者
- (ⅲ)実子もしくは養子またはその直系卑属が相続開始以前に死亡し、または相続権を失ったため代襲相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)となった被相続人の直系卑属
(3)相続税の総額を計算する
(例)課税遺産総額 1億2000万円
相続人妻、長男、長女、二男
(ⅰ)課税遺産総額を、「法定相続人の数」に応じた法定相続分で取得したものとして按分した各取得金額を計算
- 取得金額 妻 1億2000万円×1/2=6000万円
- 長男 1億2000万円×1/6=2000万円
- 長女 1億2000万円×1/6=2000万円
- 二男 1億2000万円×1/6=2000万円
(ⅱ)各取得金額に「相続税の超過累進税率」を乗じて各算出税額を計算
- 妻 6000万円×30%-700万円=1100万円
- 長男 2000万円×15%-50万円=250万円
- 長女 2000万円×15%-50万円=250万円
- 二男 2000万円×15%-50万円=250万円
【相続税の超過累進税率平成27年1月1日以降】
法定相続分に応じた取得価格税率控除額
法定相続分に応じた取得価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1000万円以下 | 10% | – |
3000万円以下 | 15% | 50万円 |
5000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1700万円 |
3億円以下 | 45% | 2700万円 |
6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
(ⅲ)相続税の総額を計算
- 妻 1100万円
- 長男 250万円
- 長女 250万円
- 二男 250万円
- 合計 1850万円
(4)各相続人等の相続税額を計算する
- (例)遺産総額 1億7400万円
- (課税遺産総額1億2000万円、基礎控除額5400万円)
- 相続税の総額 1850万円
- 実際の取得金額 妻 1億1400万円
- 長男 2500万円
- 長女 1750万円
- 二男 1750万円
(ⅰ)相続税の総額を実際の取得割合で按分して計算
- 妻 1850万円×1億1400万円/1億7400万円=1212万0690円
- 長男 1850万円×2500万円/1億7400万円=265万8046円
- 長女 1850万円×1750万円/1億7400万円=186万0632円
- 二男 1850万円×1750万円/1億7400万円=186万0632円
(ⅱ)実際の相続税納税額
- 妻0
- 実際の取得金額が1億6000万円または法定相続分以下であるため、配偶者の相続税額の軽減措置により、納税額は0
- 長男265万8000円
- (100円未満切捨て)
- 長女186万0600円
- (100円未満切捨て)
- 二男186万0600円
- (100円未満切捨て)
3 相続税額の加算、軽減、控除
- (1)相続税額の加算
- 相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)、配偶者以外の者である場合は、その者の相続税額は、20%加算されます。
一親等の血族には、被相続人の直系卑属が被相続人の養子となっている場合を含みません。ただし、被相続人の代襲相続人となっている場合は、一親等の血族にあたります。 - (2)相続税額の軽減(配偶者に対する相続税額の軽減)
- 被相続人の配偶者が相続または遺贈により財産を取得した場合には、取得価格が配偶者の法定相続分または1億6000万円までは税額が控除されます。
- (3)相続税額の控除
- (ⅰ)暦年課税分の贈与税額控除
- 相続開始前3年以内の贈与について、加算した贈与財産に課税された贈与税額相当額が控除されます。
- (ⅱ)相次相続控除
- 被相続人が、被相続人の相続(第二次相続)開始前10年以内に開始した相続(第一次相続)で財産を取得したことがあるときは、一定の控除が認められます。
- (ⅲ)相続時精算課税分の贈与税額控除
- 相続時精算課税適用財産につき課された贈与税があるときは、その贈与税額相当額が控除されます。
- (ⅳ)その他
- 未成年者控除、障害者控除、外国税額控除があります。
4 財産評価
- (1)相続税の課税価格を計算するためには、財産を金銭で評価することが必要になりますが、その評価は、原則として財産を取得したとき(課税時期)の時価で評価することになります。相続税の課税時期は相続開始日となりますので、相続開始日の評価額を出すことが必要となります。
- (2)預貯金、株式、投資信託、生命保険(被保険者が配偶者や子の場合)などについては、相続開始日の残高証明などを取り寄せることにより評価額を明らかにします。
- (3)不動産の評価
- (ⅰ)土地の評価(自用地としての価額)
- ①路線価方式
- 1㎡あたりの路線価×敷地面積
(例)路線価25万円×敷地面積200㎡=5000万円
市街化された地域で路線価が定められている場合は、路線価方式で算出します。
国税庁のホームページ「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で路線価を見ることができます。
土地の形状によっては、奥行価格補正率表や不整形地補正率表などによって調整計算される場合もありますので、専門家に評価額を出してもらうことが望ましいでしょう。
- ②倍率方式
- 固定資産税評価額×評価倍率
(例)固定資産税評価額500万円×評価倍率1.1=550万円
市街地以外の地域で路線価が決められていない土地については、固定資産税評価額に地域ごとに決められた倍率をかけて評価額を計算します。
国税庁のホームページ「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で評価倍率を見ることができます。
- (ⅱ)借地権の評価
- 土地が借地の場合は、自用地としての価額に借地権割合をかけた金額が評価額になります。
- 自用地としての価額×借地権割合=借地権の価額
(例)自用地としての価額2000万円×借地権割合70%=借地権の価額1400万円
- (ⅲ)貸地の評価
- 貸地については、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価します。
- 自用地としての価額×(1-借地権割合)=貸地の価額
(例)自用地としての価額2000万円×(1-借地権割合70%)=貸地の価額600万円
- (ⅳ)小規模宅地等の評価減の特例
- 個人が、相続または遺贈により取得した財産のうち、相続開始直前において、被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用や居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することが認められる制度です。
なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
小規模宅地等については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の要件のもとに以下の一定の割合が減額されます。 - ①被相続人等の事業の用に供されていた宅地等(貸付事業以外の事業用の宅地等)限度面積400㎡まで
- 減額割合80%
- ②被相続人等の事業の用に供されていた宅地等(貸付事業用の宅地等)限度面積200~400㎡まで
- 減額割合50%~80%
- ③被相続人等の居住の用に供されていた宅地等
- 限度面積330㎡まで
- 減額割合80%
- (ⅴ)建物の評価(自用の家屋)
- その家屋の固定資産税評価額により評価します。
- (ⅵ)貸家の評価
- 貸家については、自用の家屋としての評価(固定資産税評価額)から借家権割合、賃貸割合の価額を控除した金額によって評価します。
- 固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)=貸家の価額
(例)固定資産税評価額500万円×(1-借家権割合30%×賃貸割合50%)=貸家の価額425万円
5 相続税の申告・納付
- (1)相続税の申告については申告書の提出義務がある者については、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
被相続人の死亡時における住所が国内にある場合は、被相続人の死亡時の住所地が納税地となり、そこを管轄する税務署に申告書を提出します。
相続や遺贈で財産を受け取る者が複数いる場合は、通常は共同で申告書を提出します。 - (2)配偶者に対する相続税額の軽減や小規模宅地等の特例により結果的に相続税の納税額が0になる場合でも、これらの軽減や特例を使うためには申告書の提出が必要になります。
- (3)申告期限までに遺産分割の全部または一部が未了の場合には、各共同相続人や包括受遺者は、未分割の財産については、民法の規定による相続分や包括遺贈の割合にしたがって財産を取得したものとして課税価格を計算し、申告することになります。
- (4)申告期限内に申告書を提出した者は、申告書に相続税額に相当する相続税を申告期限までに納付しなければなりません。
相続税は、申告期限までに現金で一括して納付するのが原則ですが、一定の要件のもとに延納や物納という方法が認められることもあります。
6 生前贈与における控除、非課税の特例
- (1)贈与税の配偶者控除の特例
- 婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに、最高2000万円まで贈与税の計算において控除(配偶者控除)が受けられる特例です。
- (2)住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例
- 平成27年1月1日から令和3年(2021年)12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(住宅取得等資金)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、所定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる特例です。
- (3)教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
- 平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、親や祖父母が30歳未満の子や孫に金融機関を通じて1500万円まで贈与(信託)し、その資金が教育費として使われた場合には、贈与時点での贈与税が非課税とされる制度です。
この制度では、お金をまとめて贈与した時点でも、将来の使途が決まっているため、贈与税が非課税とされます。
平成31年度税制改正では、この制度を令和3年(2021年)3月31日まで2年延長した上で、受贈者の合計所得金額が1000万円超の場合は適用を受けることができないとしたり、教育費の範囲を限定するなど要件について大幅な見直しが行われています。 - (4)結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
- 平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、親や祖父母が20歳以上50歳未満の子や孫に金融機関を通じて1000万円まで贈与し、その資金が結婚資金(300万円が限度)や子育て資金として、受贈者が50歳になるまでに使われた場合には、贈与税が非課税とされる制度です。
契約途中で贈与者が死亡した場合は、死亡した時点での管理残高が贈与者の相続財産に含まれることになります。
平成31年度税制改正では、この制度を令和3年(2021年)3月31日まで2年延長した上で、受贈者の合計所得金額が1000万円超の場合は適用を受けることができないとしました。
7 弁護士に頼めることと弁護士に依頼するメリット
相続案件は、法律面だけではなく、常に税務面に目を配りながら事案の処理を進めて行くことが重要です。
遺産分割においては、このような分割をしたら税金はどうなるのか、別の分割方法ではどのように変わるのかなどシミレーションをしながら分割案を検討していくことが必要です。
税務面に配慮しなかった、あるいは税務面の知識がなかったために、うまく遺産分割をしたつもりでいたのに思わぬところに落とし穴があったということもあります。
このようなトラブルを未然に防ぎ、安心して相続の手続を進めるためには、法律面だけでなく、税務面についても知識と経験を有する弁護士に依頼することが有用です。
当事務所では、相続案件の処理にあたって生じる税務面に関する基本的な相談、助言等は弁護士が対応します。税務申告等、専門的な対応が必要な場合は、別途、税理士を紹介し、税理士と連携しながら案件の処理を進めていくことができますので、ワンストップのサービスを提供することができます。
8 弁護士費用(料金表)
【相談料】
30分 5500円(消費税込)
初回(30分)は無料
出張相談の場合
出張相談にも対応可能です。
相談料のほかに、移動時間30分につき出張日当5500円(消費税込)
【弁護士費用】
遺産分割手続等を受任する場合の税務面に関する基本的な相談、助言等の費用は、通常は遺産分割手続等の弁護士費用に含まれます。税務申告等、専門的な対応が必要な場合は、別途、税理士を紹介することができます。
- 遺産分割協議書作成
- 11万円(消費税込)~
- 遺産分割協議、調停、審判の代理
着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。- 遺留分減殺請求、遺留分侵害請求
着手金11万円(消費税込)~
通常の民事事件の場合に準じます。
着手金・報酬金の計算をご覧下さい。- 遺言書の作成
- 22万円(消費税込)~
定型的なものか、遺産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 遺言執行費用
- 33万円(消費税込)~
遺産の額、不動産の売却があるか、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
遺言執行に裁判手続を要する場合は、別途裁判手続に要する弁護士費用がかかります。
- 相続放棄
- 11万円(消費税込)
- 限定承認
- 33万円(消費税込)~
遺産・負債の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 見守り契約
- 月額5500円(消費税込)~
安否確認・法律相談の頻度、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 財産管理契約
- 月額2.2万円(消費税込)~
管理する財産の額、複雑・特殊な事情があるか等に応じて協議により定める額
- 任意後見契約
- 公正証書文案作成費用
- 11万円(消費税込)~
- 任意後見人報酬
- 月額2.2万円(消費税込)~
資産の額、職務の内容等に応じて協議により定める額
- 死後事務委任契約
- 11万円(消費税込)~
職務の内容等に応じて協議により定める額
その他については、個別にお問い合わせください。
※上記の金額には事件処理のための実費(印紙、郵券、交通費、通信費、謄写費用、鑑定費用など)は含まれません。
※着手金・報酬金の計算(消費税込)
- 経済的利益が300万円以下の場合
- 着手金8.8%(消費税込) 報酬金17.6%(消費税込)
- 経済的利益が300万円超、3000万円以下の場合
- 着手金5.5%+9.9万円(消費税込) 報酬金11%+19.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3000万円超、3億円以下の場合
- 着手金3.3%+75.9万円(消費税込) 報酬金6.6%+151.8万円(消費税込)
- 経済的利益が3億円超の場合
- 着手金2.2%+405.9万円(消費税込) 報酬金4.4%+811.8万円(消費税込)
(備考)
弁護士費用の支払いにつきましては、事案の内容やご事情に応じて、当初の費用(着手金)の割合を少なくして解決時に報酬金でその分を精算する、事案の内容によって減額する、分割払いとする等、依頼者の方のご負担を考慮して柔軟に対応しておりますので、ご遠慮なくご相談ください。