自分の相続の対策を今のうちからしておきたい
相続対策としては、大きく分けて、相続人間のトラブルを避け財産を円滑・円満に承継させること、相続税の納税に備えておくことがあります。
前提としての現状の把握
相続対策を行うにあたっては、前提として、どのような財産と債務があり、それぞれの価値がいくらかをまとめ、把握することが必要です。
そのために、財産目録(財産リスト)の作成を行います。
財産の①種類、②内容、③数量・面積、④評価額などについて、一覧表にまとめます。
債務については、自分の債務だけでなく、連帯保証債務も含めて記載します。
これをもとに誰にどのように財産をするかを考えて、必要に応じて、財産を現金化する、遺言を残す、節税対策を行うことなどを検討していきます。
財産の円滑・円満な承継のために
1 遺産を分けやすくしておくこと
遺言がないときは、民法が定める相続人の法定相続分に従って遺産を分ける(遺産分割をする)ことになります。
しかし、民法では、抽象的な法定相続分の割合が定められているだけなので、具体的な遺産の帰属を決めるためには、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。遺産の内容によっては、相続人間でそれぞれの希望する遺産をうまく配分することができず、それぞれの遺産を具体的に誰に帰属させるかについて協議がまとまらない場合もあり得ます。
この点、不動産だけでなく、現金や預貯金が多くあれば、分割がしやすくなります。
複数の不動産を持っている場合は、不動産を売却して換価したり、分割しておくことも検討の余地があると思います。
また、受取人の指定された生命保険の死亡保険金は相続財産に含まれず、受取人固有の資産となります。生命保険金を受け取った相続人が他の相続人に支払う代償金の原資として生命保険金を使うこともできますので、生命保険の活用も一つの方法です。生命保険は、特定の人(相続人に限りません)に現金を多く残したい場合にも活用できます。
2 遺言の活用
遺言がない場合には、遺産分割協議が必要となりますが、遺産分割についての争いが深刻化して、容易に解決することが困難となる場合もあります。
遺言を残して遺産の帰属を具体的に決めておけば、争いを未然に防ぐことも可能になります。
特定の家業を助けてきた相続人のうちの一人に報いたいなど法定相続分によったのでは相続人間の実質的な公平が図られないと考える場合や、内縁の妻や療養看護に努めてきた相続人以外の人に財産を分けてあげたいなどの場合も、遺言を残しておかないと相続人間での法定相続分に従った遺産分割が行われることになってしまいます。
遺言をしておく必要性が高いのは、具体的には以下のような場合です。
- (1)夫婦の間に子供がいない場合
- (2)内縁関係の場合
- (3)再婚をしており、先妻との間に子がいる場合
- (4)長男の妻や孫に財産を分けてあげたい場合
- (5)個人で事業や農業を経営している場合
- (6)相続人ごとに承継させたい財産を指定したい場合(不動産は長男に承継させたいなど)
- (7)法定相続分とは違う割合で財産承継をさせたい場合(家業を手伝ってきた子に多く相続させたいなど)
- (8)法定相続人がいない場合
3 家族信託
信託のスキームを用いて、民法の枠組みよりもより広い相続対策をすることもできます。
家族信託の活用例としては、以下のようなものがあります。もちろんこれらに限られるものではありません。
- (1)子供のいない高齢の夫婦における認知症対策と相続対策(後継ぎ遺贈)
- (2)親亡き後に障害のある子を守るための方策(親亡き後信託)
- (3)事業承継(指図権の活用)
4 事業承継には事前の長期の取組みが必要
中小企業・小規模事業者が、取引先とのつながり、経営に関するさまざまなノウハウ、従業員などの経営資源を守りながら今後も事業を継続・発展させて行くためには、将来を見据えた事業運営が必要です。
しかし、日々の経営で精一杯、何から始めればよいかがわからない、誰に相談すればよいかわからないなどの背景で事業承継への取組みが先送りされ、企業として存続できるにも関わらず、後継者を確保できず事業承継がうまくできなかったという事例もあります。
事業承継には、法律面、税務面からの取組みが必要ですが、後継者の育成期間も含めれば、5年から10年の時間を必要とする言われており、早期の取組みが重要です。
節税対策について
相続税とは、相続や遺贈、死因贈与によって財産を受け取った場合に支払う税金です。
遺贈や死因贈与では、財産を受け取る人は相続人だけとは限りませんので、相続人以外の人も相続税の課税対象となり得ます。
相続対策では、相続税に対する対策を考えておくことも重要です。
1 相続税額の軽減(配偶者に対する相続税額の軽減)
被相続人の配偶者が相続または遺贈により財産を取得した場合には、取得価格が配偶者の法定相続分または1億6000万円までは税額が控除されます。
この制度は、子から見た場合、親のうちの1人目の相続(一次相続)に関係する問題ですが、二次相続(もう1人の親の相続)における納税額の問題も考慮して遺産の分け方を検討しておく必要があります。
2 生前贈与の活用
(1)贈与税の配偶者控除の特例
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに、最高2000万円まで贈与税の計算において控除(配偶者控除)が受けられる特例です。
(2)住宅取得等資金の贈与税の非課税の特例
平成27年1月1日から令和3年(2021年)12月31日までの間に、父母や祖父母など直系尊属からの贈与により、自己の居住の用に供する住宅用の家屋の新築、取得又は増改築等の対価に充てるための金銭(住宅取得等資金)を取得した場合において、一定の要件を満たすときは、所定の非課税限度額までの金額について、贈与税が非課税となる特例です。
(3)教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
平成25年4月1日から平成31年3月31日までの間に、親や祖父母が30歳未満の子や孫に金融機関を通じて1500万円まで贈与(信託)し、その資金が教育費として使われた場合には、贈与時点での贈与税が非課税とされる制度です。
平成31年度税制改正では、この制度を令和3年(2021年)3月31日まで2年延長した上で、受贈者の合計所得金額が1000万円超の場合は適用を受けることができないとしたり、教育費の範囲を限定するなど要件について大幅な見直しが行われています。
(4)結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度
平成27年4月1日から平成31年3月31日までの間に、親や祖父母が20歳以上50歳未満の子や孫に金融機関を通じて1000万円まで贈与し、その資金が結婚資金(300万円が限度)や子育て資金として、受贈者が50歳になるまでに使われた場合には、贈与税が非課税とされる制度です。
平成31年度税制改正では、この制度を令和3年(2021年)3月31日まで2年延長した上で、受贈者の合計所得金額が1000万円超の場合は適用を受けることができないとしました。
3 財産の評価額の引き下げ
(1)小規模宅地等の評価減の特例
個人が、相続または遺贈により取得した財産のうち、相続開始直前において、被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用や居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することが認められる制度です。
なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
(2)貸地の評価
貸地については、自用地としての価額から借地権の価額を控除した金額によって評価します。
(3)貸家の評価
貸家については、自用の家屋としての評価(固定資産税評価額)から借家権割合、賃貸割合の価額を控除した金額によって評価します。
相続税の納税対策について
1 相続税の申告
相続税の申告については申告書の提出義務がある者については、相続があったことを知った日の翌日から10か月以内に行わなければなりません。
申告期限までに遺産分割の全部または一部が未了の場合には、各共同相続人や包括受遺者は、未分割の財産については、民法の規定による相続分や包括遺贈の割合にしたがって財産を取得したものとして課税価格を計算し、申告することになります。
2 相続税の納付
申告期限内に申告書を提出した者は、申告書に相続税額に相当する相続税を申告期限までに納付しなかればなりません。
相続税は、申告期限までに現金で一括して納付するのが原則ですが、一定の要件のもとに延納や物納という方法が認められることもあります。
3 納税資金の確保
納税資金の確保のためには、現金、預貯金などの現金化しやすい財産を残しておくことや不動産を売却しやすい形で残しておくことなどが重要になります。
生命保険を活用することも納税資金確保の有効な対策となります。