遺留分
遺留分侵害額の計算はどのようにするのでしょうか
遺留分侵害額の算定式
平成30年7月6日に成立した改正民法により、それまで民法が明示的に規定していなかった遺留分侵害額の算定式が、判例を参考にして明文化されました。
具体的な遺留分侵害額の算定は、以下のようにされます。
【算定式】
①遺留分算定の基礎となる財産の価額
=相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額-債務の全額
②個別的遺留分の割合
=総体的遺留分の割合×法定相続分の割合
③遺留分侵害額
=遺留分算定の基礎となる財産の価額(①)×個別的遺留分の割合(②)
-遺留分権利者の特別受益(遺贈又は特別受益にあたる贈与)の価額(④)
-遺留分権利者が遺産分割において取得すべき遺産の価額(⑤)
+遺留分権利者が相続によって負担する債務の額(⑥)
遺留分侵害額算定の具体例
被相続人をA、相続人は、長男甲、長女乙、二女丙とします。
4000万円の遺産、3000万円の債務があります。
長男に生計の資本として1億円の生前贈与をしており、長女甲と二女丙にもそれぞれ500万円ずつの生前贈与をしています。
【算定式】の①
遺産4000万円+特別受益(甲1億円+乙500万円+丙500万円)
-債務3000万円=1億2000万円
【算定式】の②
乙、丙ともに、総体的遺留分の割合1/2×法定相続分の割合1/3=1/6です。
【算定式】の⑤
遺言がなかった場合 遺産分割をすることになりますが、法定相続分と特別受益の持戻しの規定に従って、具体的相続分に応じて各自が取得すべき遺産の価額を計算すると、以下のようになります。
遺産4000万円+特別受益(甲1億円+乙500万円+丙500万円)=1億5000万円
甲 1億5000万円×1/3(法定相続分)-1億円(特別受益)=-5000万円
乙 1億5000万円×1/3(法定相続分)-500万円(特別受益)=4500万円
丙 1億5000万円×1/3(法定相続分)-500万円(特別受益)=4500万円
残っている遺産は4000万円ですから、これを乙と丙で半分ずつ(乙4500万円:丙4500万円=1/2:1/2)分けることになり、【算定式】の⑤は、乙2000万円、丙2000万円となります。
【算定式】の⑥
法定相続分1/3に応じ、乙、丙ともに、3000万円×1/3=1000万円となります。
【乙、丙の遺留分侵害額】
いずれも、
1億2000万円(①)×1/6(②)-500万円(④)-2000万円(⑤)+1000万円(⑥)=500万円となります。
したがって、乙、丙ともに、上記④の2000万円のほかに、遺留分侵害額として500万円を得ることができますが、債務を1000万円引き継ぐ、つまり差し引きで1500万円ずつを取得するということになります。
財産評価の基準時と評価方法
【評価の基準時】
遺留分算定の基礎となる財産の価額は、相続開始時点を基準に評価されます。
【評価の方法】
相続開始時点の客観的価額に基づいて評価されます。
・目的物の価値が相続開始後に増減しているときは、相続開始時の原状で評価します。
・贈与された金銭については相続開始時の貨幣価値に換算します。
・債権については名目額(債権額)ではなく、債務者の資力や担保の有無を考慮して取引価額を算定すべきとされています。
算入される贈与
贈与を次のように三つに分けます。
①相続人以外への贈与
②相続人への贈与で特別受益にあたるもの
(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)
③相続人への贈与で特別受益にあたらないもの
令和元年7月1日よりも前に開始した相続の場合
①と③について
原則として、相続開始前1年以内のものだけが算入されます。
②について
贈与がいつ行われたものであっても算入されるとされています。
贈与をした被相続人が、この特別受益にあたる贈与について遺産に持ち戻して計算しなくてもよいといういわゆる「持戻し免除の意思表示」をしていた場合であっても算入されます。遺留分制度は、相続人が相続財産の一定割合を確保することを保障するための制度ですから、被相続人がいかようにでも遺留分を減らすことができないようにその財産処分の自由を制限する制度と捉えています。
令和元年7月1日以後に開始した相続の場合
平成30年7月6日成立の改正民法によって規律が改められました。
①について
原則として、相続開始前1年以内のものだけが算入されます。
②と③(相続人に対する贈与)について
相続人に対する贈与で算入されるものが相続開始前1年以内のものも含めて特別受益としての贈与に限定されました。
相続人に対する特別受益としての贈与で算入されるものが相続開始前10年以内のものに限定されました。
(令和元年12月5日 弁護士菅野光明 記)