相続分の譲渡の方法と対抗要件の要否
遺産分割
1 相続分の譲渡とは
相続分の譲渡とは、相続人が遺産全体に対する包括的持分や法律上の地位を譲渡することをいいます。
相続分の譲渡によって遺産全体に対する割合的持分が譲受人に移転し、相続分全部の譲渡の場合は譲渡人は遺産分割手続から離脱します。譲受人が第三者である場合は遺産分割手続に新たに参加することになります。
このように相続分の譲渡は、相続財産に属する個別の財産の譲渡とは異なります。
2 相続分の譲渡の方法
相続分の譲渡は遺産分割よりも前に行うことが必要です。
もっとも相続分の譲渡の方法に制限はありません。
有償であるか無償であるかは問われません。
書面による必要は無く、口頭によるものでも構いません。
相続分の譲渡を行ったことについて他の相続人に通知することも法律上要求されておりません。
3 相続分の譲渡について対抗要件を備えることの要否
相続分の譲渡については公示手段がないため、対抗要件を備えることも必要ありません。
相続分の譲渡が二重になされた場合は、先になされた相続分の譲渡が優先します。
もっとも、二重になされた相続分の譲渡のうちどちらの譲渡が先になされたかについて争いが生じる可能性はありますから、譲渡がされたことやその時期についての証拠を残しておくことが望ましいといえます。
東京高等裁判所昭和28年9月4日決定(高裁民事判例集6巻10号603頁、家月5巻11号35頁)は、
「相続分の譲渡は、これによつて共同相続人の一人として有する一切の権利義務が包括的に譲受人に移り、同時に、譲受人・・・は遺産の分割に関与することができるのみならず、必ず関与させられなければならない地位を得るのである。」
こ「のような意味の相続分の譲渡であつて、相続財産に属する個別的財産(個々の物または権利)に関する権利の移転ではないから、各種個別的権利(物権債権鉱業権その他工業所有権といわれる類)の変動について定められる対抗要件の諸規定の、なんらかかわるところではない。」
と判示しています。
和歌山家庭裁判所昭和56年9月30日審判(家月35巻2号167頁)は、
「遺産分割前の相続分の相続人間における譲渡は何等の要式も必要でなく、また譲渡の通知もしくは登記等がなければ当事者以外の共同相続人にその効力を主張し得ないものではないと解すべきであり、遺産分割前の相続分の譲渡が共同相続人間で有効になされた以上は、その後他の相続人に二重に譲渡行為がなされてもそれは無効である。」
としています。
【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】
監修
菅野綜合法律事務所
弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属
弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。