特別縁故者の相続人は相続財産の分与を受けることができるか
特別縁故者に対する相続財産の分与
特別縁故者に対する相続財産分与制度の概要についてはこちらを参照
目次
1 特別縁故関係があるとみられる人が死亡してしまった場合
特別縁故関係があるとみられる人が相続財産の分与を受ける前に死亡してしまう場合があり得ます。
このような場合、特別縁故関係があるとみられる人の相続人は、その地位を引き継いで相続財産の分与を受けることができるのでしょうか。
特別縁故者とみられる人が死亡した時点が、その人が相続財産の分与の申立をする前であったのか、それとも申立をした後であったのかによって、場合を分けて検討します。
2 相続財産の分与の申立をする前に特別縁故関係があるとみられる人が死亡した場合
特別縁故関係があるとみられる人が相続財産の分与の申立をする前に死亡した場合、その相続人が相続財産の分与の申立をすることはできるのでしょうか。
特別縁故者としての地位は一身専属的なものである等の理由で、否定的に考える、つまり、特別縁故関係があるとみられる人の相続人は相続財産の分与の申立をすることができないとするのが一般的です。実務上も否定説に基づいて運用されています。
東京高等裁判所平成16年3月1日決定(家月56巻12号110頁)は、
特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者がその分与の申立をすることのないまま死亡した場合には特別縁故者としての地位が承継されることはないと解するのが相当である
として否定説に立っています。
その理由とするところは、以下のとおりです。
・被相続人の特別縁故者として相続財産の分与を受ける権利は、家庭裁判所における審判によって形成されるにすぎず、被相続人の特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者も、審判前に相続財産に対し私法上の権利を有するものではない(最高裁平成6年10月13日判決・判例時報1558号27頁参照)。
・特別縁故者として相続財産分与の申立をするかどうかは一身専属的な地位に基づくものである。
・そうすると、特別縁故者として相続財産の分与を受ける可能性のある者も、現にその分与の申立をしていない以上、相続財産に対し私法上の権利を有するものではない。
加えて、この東京高等裁判所の決定は、
特別縁故者にあたると主張する人が、被相続人の特別縁故者として相続財産分与の申立をする目的で、その前提手続である相続財産管理人選任事件の申立をしていたとしても、直ちに特別縁故者ないしこれに準ずる者として相続財産に関し法律上保護すべき具体的な財産権上の地位を有するものではないというほかない
とも述べ、相続財産の分与の申立をしていない以上、相続財産の分与を受けるために相続財産管理人選任の申立をしていてもそれだけでは足りないとしています。
3 相続財産の分与の申立をした後に特別縁故関係があるとみられる人が死亡した場合
特別縁故関係があるとみられる人が相続財産の分与の申立をした後に死亡した場合、その相続人は相続財産の分与の申立人としての地位を承継することができるのでしょうか。
相続財産の分与を受ける権利は、申立がされたことによって具体化されて財産的性質を持つ期待権が生じてそれが相続性を有すること、否定説に立つと家庭裁判所での審理期間の違いによって分与の可否が左右され不公平が生じる可能性があることから、肯定的に解釈するのが多数で、実務上も肯定説に基づいて運用されています。
大阪高等裁判所平成4年6月5日決定(家月45巻3号49頁)は、
特別縁故関係があるとみられる人の死亡時期を申立前と申立後とに分けて次のように述べています。
(申立前)
特別縁故者の地位は、その者と被相続人との個人的な関係に基づくもので、財産分与の申立てをするか否かはその者の意思に委ねられていて、その意味で一身専属性の強い地位であるから、特別縁故者であったと考えられる者が分与の申立てをすることなく死亡したときは、その相続人がその地位を承継したとして分与の申立てをすることはできないと解すべきである。
(申立後)
しかしながら、その者が一旦分与の申立てをすれば、相続財産の分与を受けることが現実的に期待できる地位を得ることになり、その地位は財産的性格を持つものであるから、その後その者が死亡した場合、分与の申立人たる地位は相続性を帯び、その相続人はその地位を承継するものと解するのが相当である。
【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】
監修
菅野綜合法律事務所
弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属
弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。