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特別縁故者に対する相続財産分与~成年後見人や職業的立場で療養看護にあたっていた者~

特別縁故者に対する相続財産の分与

1 職業的立場で療養看護にあたっていた場合

(1)民法第958条の3第1項の「被相続人の療養看護に努めた者」にあたるか
看護師や家政婦など職業的立場で被相続人の療養看護にあたっていた場合、その者が民法958条の3第1項のうち「被相続人の療養看護に努めた者」として特別縁故者として認められるかという問題があります。

職業的に被相続人の療養看護にあたっていた場合は、それに対する対価(報酬)を得ているのが通常でしょうから、それらの者が行った療養看護に関する行為は対価(報酬)の範囲内のものであり、特別の事情がない限り民法958条の3第1項の「被相続人の療養看護に努めた者」とはいえないと考えられます。

しかしながら、具体的な状況にもよりますが、得ていた対価(報酬)以上の療養看護が献身的に尽くされていたというような例外的な場合は、特別の事情があるとして民法958条の3第1項の「被相続人の療養看護に努めた者」にあたる場合もあると考えられます。

(2)職業的な立場で正当な報酬を得て療養看護にあたっていた場合の裁判例    
神戸家庭裁判所昭和51年4月24日審判(判例時報822号17頁) 

事実関係は以下のとおりです。
・昭和41年7月10日頃から被相続人に付添看護婦として雇用され、被相続人死亡時の昭和43年10月27日まで被相続人の看病を行い、当初は自宅から通っていたが、被相続人が老衰のため独りでは便所へも行けない状態で夜間の看護を必要としたため、被相続人の依頼で約1週間後からは同人方に住込み、同人と同室に寝泊りして同人を看護するようになった。
・被相続人に対する看護ぶりは献身的なもので、誠心誠意被相続人の看護に努めており、一方気むずかしい性格の持主である被相続人も申立人の看護ぶり等については不満はなかったようで、現に第三者からは女性嫌いと思われていた被相続人が申立人に尿等の世話までさせていたということは申立人を気に入っていた証拠と推察され、また、被相続人の性格、病状、被相続人方の地理的条件等を考えると、申立人のように、2年以上も被相続人の看護や世話を行うということは誰にでも簡単にできることではないと思われた。
・給料は当初は4万円、半年後から被相続人死亡時までは5万円であった。

裁判所は以下のように述べて特別縁故者にあたるとしています。
・申立人は被相続人から正当な報酬を受けて同人の看護に努めていたものであることが認められるが、付添婦、看護婦などして正当な報酬を得て稼働していた者は特別の事情がない限りは民法958条の3にいう被相続人の療養看護に努めた者とはいえず、したがって、原則としては特別縁故者とは認められないが、対価としての報酬以上に献身的に被相続人の看護に尽した場合には特別の事情がある場合に該当し、例外的に特別縁故者に該当すると解すべきである。
・申立人は2年以上もの間連日誠心誠意被相続人の看護に努め、その看護ぶり、看護態度および申立人の報酬額からみて、対価として得ていた報酬以上に被相続人の看護に尽力したものであるといえるのであって、したがって、申立人には前記特別の事情があるとみるのが相当であり、申立人は被相続人の特別縁故者に該当するというべきである。

ポイントは、
①被相続人から正当な報酬を受けていた者は、原則として特別縁故者とは認められない
②しかし、対価としての報酬以上に献身的に療養看護に尽したなどの特別の事情がある場合は、例外的に特別縁故者に該当すると言いうる  
というところにあります。

2 成年後見人であった者による特別縁故者に対する相続財産の分与申立

(1)成年後見制度の普及に伴う後見人からの申立
最近では、成年後見制度の普及に伴って、成年後見人からの申立も増加しているようです。
成年後見制度における成年後見人の義務として、被相続人に対する身上配慮義務(民法第858条)が定められています。
したがって、成年後見人であったこと自体によって特別縁故者となり得ることが否定されるものではありませんが、特別縁故者と認められるためには、成年後見人の通常の職務の程度を超える程度の親しい関係等の具体的事情が必要となってきます。

(2)大阪高等裁判所平成20年10月24日決定(家月61巻6号99頁)の事案
【事実関係】
・Aは被相続人の父の妹の孫に当たり、BはAの夫である。
・被相続人は生涯独身であったため、昭和15年に父が死亡し、昭和35年に母が死亡した後は、父親の代からの店を営んで一人暮らしをしていた。
・戦時中の昭和17年から同20年までの間、当時10歳前後であったAの家と被相続人の家との間に親族としての緊密な交流があった。
・Aは昭和29年にBと結婚した後、被相続人との間では、電話や手紙で連絡したり、盆や暮れの贈答を交わすなどの交際が続いた。また、昭和63年にAB夫婦が先祖の墓参りに訪れた際、Aは43年ぶりに被相続人に再会し、Bは被相続人と初めて対面した。
・その後、ABは被相続人と直接会う機会がなかったが、平成11年に至り、被相続人宅に訪問看護に訪れていた担当者から、89歳に達している被相続人が失禁や徘徊を繰り返す状態であり、一人暮らしは無理なので、施設への入所が必要であるとの連絡を受けた。このため、ABが電話で直接被相続人と話そうとしても認知機能の低下のために意思の疎通が十分に行えない状態であったため、Bが福祉事務所等に電話等で連絡をとって、身元保証人となって被相続人を特別養護老人ホームに入所させた。
・ABは、平成11年から被相続人が死亡した平成19年までの約8年間に39回にわたって被相続人が入院していた病院などを訪れ、被相続人の看護・療養状況に気を配ったり、話し相手となったり、被相続人の体調のよいときは被相続人をタクシーで外出させ、被相続人の好む食事をさせたりした。
・Bは平成12年には被相続人の成年後見人に選任されて無報酬で財産管理等にも尽力した。このようなことから、上記のABの訪問のうち30回分の旅費等の費用は後見人としての事務に必要な費用として被相続人の財産の中から支出されたが、残りの9回分については親族としての訪問であるとして自費でまかなった。
・被相続人が平成19年に97歳で死亡した際には、葬儀は施設葬として介護関係者らの参加を得て行われたが、この葬儀の喪主にはA、施主にはBがなり、葬儀に要した費用は申立人らが負担した。また、その後の満中陰、新盆、一周忌の法要等も申立人らの費用負担で行った。これらの葬儀や法要等に要した費用は240万円余(ABの旅費・宿泊費等合計90万円も含む。)であった。
・被相続人はかねてから、母親と同じ墓に納骨してもらいたいと述べていたところ、ABが寺の住職らと折衝した結果、このことも実現可能となった。

【裁判所の判断】
・被相続人が高齢及び認知症状により一人暮らしが困難となって老人ホームに入所するまでの間は、A及びBと被相続人は、遠隔地に居住していたこともあって、その関係は、精神的な交流を中心とするもので、親しい親戚関係の範囲内にあるものと評価することはできるが、相続財産の分与を相当とする関係に達しているとまでみることは困難というべきである。
・しかし、被相続人が平成11年に老人ホームに入所してからは、Bが、入所時の身元保証人や成年後見人となったほか、AとBは、多数回にわたって、遠距離の旅程をものともせず、老人ホームや入院先を訪れて、親身になって被相続人の療養看護や財産管理に尽くした上、相当額の費用を負担して、被相続人の葬儀を主宰したり、その供養も行っているものである。
・このような関係をみると、AとBは、被相続人と通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり、被相続人からも信頼を寄せられていたものと評価することができるから、民法958条の3所定の、いわゆる特別縁故者に該当するものと認めるのが相当である。
・被相続人が老人ホームに入所するまでのA及びBと被相続人との関係は、上記のとおりにみることが相当であるけれども、特別縁故とみるに至らない。
・A及びBの療養看護上及び財産管理上の貢献並びに被相続人の死後の供養については、これらを十分斟酌した上で、分与額を定めるのが相当というべきである。

【分与額について】
被相続人の相続財産は、相続財産管理人によって管理されている預金6283万円余りと宝石類等(遺産動産)であるところ、Aに対し遺産動産と500万円、Bに対し500万円を、それぞれ分与するのが相当というべきであるとしました。

この大阪高等裁判所の決定では、「成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係」の存在が、特別縁故者として認められるための根拠とされています。
もっとも、この事案では、Aは被相続人の父の妹の孫、BはAの夫と、被相続人とは全くの赤の他人ではないという事情があります。特別縁故性の判断には被相続人の意向も考慮されることからすると、「成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係」の認定においては、本件事案を専門職後見人などを含めた第三者後見人の場合と比較すると、自ずから違いが生じてくるように思われます。
また、成年後見人として報酬をもらっていたかどうかは、分与すべき財産の内容・額の判断、ひいては特別縁故者性自体の判断にも影響してくるものと思われます。

(3)大阪高等裁判所平成28年3月2日決定(判例時報2310号85頁)の事案

【X1(被相続人と縁戚関係なし)について】
【事実関係】
・X1は、平成12年10月以降被相続人が死亡するまで、被相続人の身の回りの世話をするようになり、さらに、被相続人の精神科受診に付き添ったり抗告人X2と連絡を取り合ったりして、被相続人についての成年後見申立てに向けた支援に取り組んだ。
・被相続人は、平成17年7月6日ころ、同人が亡くなった後の不動産及び預貯金を抗告人X1を含む5名の者に遺贈しようと考えてその旨の書面を作成した。

【裁判所の判断】
X1は、相続財産の全部又は一部を抗告人X1に分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったと評価するのが相当である。
もっとも、X1は、平成16年4月以降、被相続人又はその成年後見人からアルバイト料の支払を受けていたものであるが、その額は一か月概ね1万5000円から2万円程度であって、引用に係る原審判の認定した抗告人X1の被相続人に対する関わり合いの実情に照らせば比較的低額といえ、しかも、X1が被相続人の身の回りの世話を始めたのは、平成12年10月であることなどに照らすと、アルバイト料支払の事実は、X1が民法958条の3第1項の特別縁故者に当たると認定することの妨げにはならないというべきである。

【X2(被相続人のいとこ、後見人)について】
【事実関係】
・X2は、成年後見申立ての前から、被相続人との間で、冠婚葬祭への出席等の親戚づきあいに加え、同人からの相談に親身にのってやるなどのつきあいをしていた。
・X1と連絡を取り合ったりして、被相続人についての成年後見申立てに向けた支援に取り組み、自ら成年後見人に就任して被相続人の身上看護を担ってきた。
・被相続人は、平成17年7月6日ころ、同人が亡くなった後の不動産及び預貯金を抗告人X2を含む5名の者に遺贈しようと考えその旨の書面を作成した。

【裁判所の判断】
X2は、相続財産の全部又は一部を抗告人X2に分与することが被相続人の意思に合致するとみられる程度に被相続人と密接な関係があったと評価することができるというべきである。
もっとも、X2には後見人としての報酬として既に323万5000円が支払われているものの、上記の各事情、とりわけ被相続人がその財産を抗告人X2に遺贈する意思を有していたと認められることからすれば、なおX2は民法958条の3第1項の特別縁故者に当たると解するのが相当である。

【分与額について】
管理財産1億2572万円余りのうち、X1、X2に対し各々500万円ずつ分与するのが相当であるとされています。

 

     【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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