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「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)と代襲相続

遺言

1 相続開始以前に受遺者が死亡した場合

相続開始以前に受遺者が死亡した場合について、民法第994条第1項は「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」としています。
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずるとされており(民法第985条第1項)、遺言の効力発生時に受遺者が存在することが必要であるとする原則(同時存在の原則)から、受遺者が相続開始以前に死亡している場合は遺贈の効力は生じないとされています。

そして、遺贈が効力を生じないときは、遺言者がその遺言に別段の意思を表示していない限り、受遺者が受けるべきであったものは相続人に帰属します(民法第995条)。

 

2 「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)がされた後、相続開始前に「相続させる」と指定された相続人が死亡した場合

(1)問題点
「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)の場合は、上記の遺贈の場合の民法第994条第1項のような遺贈が無効になるとの明文の規定がありません。
また、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)の場合は、「相続させる」と指定された者は相続人であることから、遺贈の場合と異なりその相続人の子らが代襲相続をするという解釈も考えられます。

(2)特定の遺産を取得しうる地位が代襲相続されるという考え方
東京高等裁判所平成18年6月29日判決(判例時報1949号34頁、判例タイムズ1256号175頁)は、本件遺言における「相続させる」旨の遺言は分割方法の指定と認められるとしたうえで、以下のように判示しました。

「相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって、当該相続人は、相続の内容として、特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり、その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして、当該相続人が相続開始時に死亡していた時は、その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきである。
すなわち、代襲相続は、被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合、相続における衡平の観点から相続人の有していた相続分と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり、代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく、直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。そうすると、相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても、この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず、その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく、代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。」

「これと異なり、被相続人が遺贈をした時は、受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法994条1項)、遺贈は、相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって、その性質から見て、とりわけ受遺者が相続人でない場合は、類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され、受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって、被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから、遺贈が効力を失うのであり、このようにすることが、被相続人の意思に合致するというべきであるし、相続における衡平を害することもないのである。」

「他方、遺産分割方法の指定は相続であり、相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが、代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり、相続人間の衡平を損なうことなく、被相続人の意思にも合致することは、法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。遺産分割方法の指定がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。」

(3)最高裁判所平成23年2月22日判決(民集65巻2号699頁)
しかし、平成23年の最高裁判所判決が、以下のように、特段の事情がない限り、「相続させる」旨の遺言は効力を生じないとの判断を示しました。

「被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は、一般に、各推定相続人との関係においては、その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係、各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力、特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無、程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。このことは、遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し、当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する「相続させる」旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく、このような『相続させる』旨の遺言をした遺言者は、通常、遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。」

「したがって、上記のような『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」

この最高裁判所の判決によって「相続させる」旨の遺言に代襲相続の規定の適用ないし準用があるかという問題について解釈の統一が図られました。
長男に全ての遺産を「相続させる」との遺言をした遺言者(被相続人)より先に長男が死亡した場合,遺言者が「相続させる」とした財産を長男の子に承継させることを望んでいたのか、それとも長男以外の遺言者の子など長男の子以外に承継させることを望んでいたのかについては、事案により様々であり、遺言者の意思が明らかでない場合にまで長男の子に代襲相続をさせることが遺言者の意思にかなうということはできないと思われます。したがって、遺贈の場合と同様に、遺言者の死亡時(遺言の効力発生時)以前に「相続させる」と指定された相続人が死亡している場合は遺言の効力は生じないと考えるのが結論的にも妥当であると考えられます。

 

3 実務上の対応・対策における留意点

上記の最高裁判所の判決によれば、遺言者の意思解釈が重要であるところ、遺言に遺言者の意思が明確に表示されていないときに、法定相続についての代襲相続の規定は、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)における遺言者の意思を補充する意味を持たないことになります。

上記の最高裁判所の判決が指摘する「特段の事情」、すなわち、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、「相続させる」と指定した相続人が死亡した場合には、その相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき事情を証明することも容易ではありません。

後日の紛争を回避するため、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)をする場合は、「相続させる」と指定した相続人の方が遺言者より先に死亡する可能性を念頭に置いて、補充規定を遺言に設けておくことが望ましいといえます。

 

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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