保険金受取人が死亡していた場合の保険金の支払い |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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保険金受取人が死亡していた場合の保険金の支払い

遺産の範囲と調査

1 保険金受取人の相続人が保険金受取人となる

保険法第46条は、「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。」規定しています。
保険契約者は、保険事故が発生するまでは保険金受取人の変更をすることができますが(保険法第43条第1項)、生命保険の約款では、「死亡保険金受取人の死亡時以後、死亡保険金受取人の変更が行われていない間に保険金の支払事由が発生したときは、死亡保険金受取人の死亡時の法定相続人(法定相続人のうち死亡している者があるときは、その者については、その順次の法定相続人)で保険金の支払事由の発生時に生存している者を死亡保険金受取人とします。」との規定が設けられていることが多いです。

 

2 新たに保険金受取人となった保険金受取人の相続人の権利の取得割合

新たに保険金受取人となった保険金受取人の相続人各々の権利の割合について、現行の保険法施行前の旧商法時の判例ですが、最高裁判所平成5年9月7日判決(民集47巻7号4740頁)は、次のように述べて、民法第427条により平等の割合で保険金請求権を取得するものとしています。
「商法676条2項の規定の適用の結果、指定受取人の法定相続人とその順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法427条の規定の適用により、平等の割合になるものと解すべきである。
「けだし、商法676条2項の規定は、指定受取人の地位の相続による承継を定めるものでも、また、複数の保険金受取人がある場合に各人の取得する保険金請求権の割合を定めるものでもなく、指定受取人の法定相続人という地位に着目して保険金受取人となるべき者を定めるものであって、保険金支払理由の発生により原始的に保険金請求権を取得する複数の保険金受取人の間の権利の割合を決定するのは、民法427条の規定であるからである。」
最高裁判所平成4年3月13日判決(民集46巻3号188頁)も同じ結論です。

 

3 同時死亡の場合

同時死亡の場合は互いに相続が生じません(同時存在の原則)。

したがって、保険法第46条の上記の規定は保険契約者と指定受取人が同時に死亡した場合にも妥当します(類推適用)。

そして、最高裁判所平成21年6月2日判決(民集63巻5号953頁)は、
以下のように述べて、保険金受取人とその相続人が同時に死亡した場合は、保険金受取人の相続人は保険金受取人にはならないとしています。
「商法676条2項の規定は、保険契約者と指定受取人とが同時に死亡した場合にも類推適用されるべきものであるところ、同項にいう『保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人』とは、指定受取人の法定相続人又はその順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に現に生存する者をいい(最高裁平成2年(オ)第1100号同5年9月7日第三小法廷判決・民集47巻7号4740頁)、ここでいう法定相続人は民法の規定に従って確定されるべきものであって、指定受取人の死亡の時点で生存していなかった者はその法定相続人になる余地はない(民法882条)。」
「したがって、指定受取人と当該指定受取人が先に死亡したとすればその相続人となるべき者とが同時に死亡した場合において、その者又はその相続人は、同項にいう『保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人』には当たらないと解すべきである。」

 

4 保険金受取人の死亡時の相続人が保険事故発生時に生存していない場合

例えば、父Aと子B2人の家族で、子Bが自分を被保険者として、受取人を父Aとする生命保険を契約していたとします。
このような例で、先に父Aが死亡して、その後、受取人の変更手続をしないまま、子Bも死亡したときに、保険金受取人は誰になるのかという問題があります。
なお、子Bにはその死亡時に相続人はおらず、父Aにはその死亡時に第2順位の相続人とし姉C(子Bからみれば伯母)がいたとします。
ほかに身寄りのない子Bの葬儀やその後の法事などを伯母Cが自らの費用で執り行った場合に、伯母Cは死亡保険金を受け取ってそれを葬儀や法事などの費用にあてられるかという問題も生じます。

このような問題については、
名古屋地方裁判所平成12年12月1日判決(金融商事判例1110号51頁)があり、その判決の判旨を本件に引き直していえば、
保険金受取人である父Aの死亡時における相続順位(第1順位は子Bとなります)とは異なる第2順位の相続人又はその順次の法定相続人に保険金を取得させるのが、保険契約者の通常の意思であるとまではいえないこと、その他保険契約者の債権者の利益なども考慮して、保険金受取人父Aの第2順位の相続人である伯母Cは保険金受取人となれない
としています。

実務上の取扱いは、ほとんどの保険会社が、このような事例の場合は、保険金受取人父Aの第1順位の相続人である子Bの順次の法定相続人がいないため、保険金受取人不存在の場合として、保険契約者である子Bが保険金受取人を兼ねることとなり、死亡保険金は子Bの相続財産に帰属するとして、相続財産管理人へ支払いがなされているようです。
私も相続財産管理人としてこのような事例の処理をしたことがあります。

それでは、伯母Cは葬儀や法事等の費用の支払いを受けられないかというと、支出内容が相当なものであれば、支出したことを証する資料に基づいて、相続財産管理人が管理している相続財産(この中には死亡保険金も含まれます)の中から、相続財産管理人に裁判所の許可を受けて払い出しをしてもらうことが可能です。
そのためには、まず、裁判所に相続財産管理人選任の申立てをすることが必要となります。

 

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

 

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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