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相続放棄をしたか、放棄をする予定のときに生命保険金を受け取ってよいか

相続放棄・限定承認

1 相続放棄と生命保険金

相続放棄をした、または、これから相続放棄をする予定であるが、被相続人が特定の相続人を保険金受取人とする生命保険をかけていた、あるいは単に保険金受取人を「相続人」とする生命保険をかけていた場合、保険金受取人となる相続人が生命保険金を受け取っても問題はないのかということを疑問に感じる場合があると思います。
また、民法第921条は法定単純承認事由というものを定めており、相続人が、相続財産の全部又は一部を処分したとき(1号)、限定承認や相続放棄をした後であっても相続財産の全部又は一部を隠匿したり、私に費消したなどの場合(3号)には、単純承認をしたものみなすという規定があるため、生命保険金を受け取った場合には単純承認をしたものとみなされ、相続放棄をしても債務も承継することになるのではないかと考えるかもしれません。

 

2 生命保険金は相続財産か

このことに関係する問題として、生命保険金は相続財産に属するものかという問題があります。
この点については以下のような判例があり、生命保険金の法律上の取扱いについては、相続財産ではないということで判例上の取扱いは確定しています。
なお、税務上の取扱いは異なり、みなし相続財産とされ、相続税の課税対象となります。

最高裁判所昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)
最高裁判所昭和48年6月29日判決(民集27巻6号737頁)
最高裁判所平成16年10月29日決定(民集58巻7号1979頁)

保険金受取人を単に「相続人」と指定した保険契約の場合について、特段の事情のないかぎり、被保険者死亡の時におけるその相続人たるべき者のための契約であり、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものと解すべきであるとされているところです。

 

3 生命保険金の受領の可否について

保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産から離脱したものとされていることから、相続人が相続放棄をしても、またはする予定であっても、自分を受取人とする生命保険金を受け取ることに問題はありません

東京地方裁判所昭和60年10月25日判決(家月38巻3号112頁)は、
「たとえ、その配偶者及び子が後に相続放棄をしたとしても、それにより配偶者及び子が保険金請求権を失い、右相続放棄により相続権を取得した第2順位の法定相続人が保険金請求権を取得するということまでは予定していないというべきである」
「保険契約者が死亡保険金受取人を『法定相続人』と指定した場合には、特段の事情のない限り、被保険者死亡時における、すなわち保険金請求権発生当時の法定相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であり、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産から離脱していると解すべきである。」
としています。

横浜地方裁判所平成元年1月30日判決(判例タイムズ701号262頁・金融商事判例829号38頁)は、
「特段の事情のない限り、保険契約者が死亡保険金受取人を「相続人」と指定する場合には、同人が死亡した時点、すなわち保険金請求権が発生した時点における法定相続人に保険金請求権を帰属させることを予定しているものであるということができ、その相続人が相続放棄をしたとしても、それによりその相続人が保険金請求権を失い、右相続放棄により相続権を取得した法定相続人が保険金請求権を取得するということまでは予定していないというべきである。」
「保険契約者が死亡保険金受取人を『相続人』と指定した場合には、特段の事情のない限り、被保険者死亡時(保険金請求権発生時)の相続人たるべき者を受取人として特に指定した、いわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であり、右保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に相続人の固有財産・・・となり、被保険者の財産から離脱していると解すべきである。」
としています。

また、生命保険金の受領が単純承認にあたるかどうかについては、古い裁判例ではありますが、
山口地方裁判所徳山支部昭和40年5月13日判決(下級裁判所民事裁判例集16巻5号859頁・家月報18巻6号167頁)は、
「相続人が保険金受取人である場合には、保険金は相続財産に属しないものであるから相続人がこれを処分しても単純承認とはならないこと明らかなところであ」る
としています。

 

   【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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