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遺産分割の対象となる財産が残っている場合の遺留分侵害額の算定

遺留分

1 遺産分割において取得すべき財産の価額の控除

遺留分の侵害がある場合においても、遺贈等の対象とならない遺産が残されており遺産分割が行われるときは、遺留分侵害額の計算をするにあたり、遺留分権者の遺留分額からその者が遺産分割において取得すべき遺産の価額が控除されます。
遺留分制度が被相続人の財産に対する遺留分権者の最低限の取り分を確保する制度であることによります。

 

2 遺留分権利者が遺産分割によって取得すべき財産の価額についての算定方法

(1)平成30年民法(相続法)改正前の実務上の取扱い
以下のように実務上の取扱いが分かれていました。

(ⅰ)遺産分割未了の場合
法定相続分をもとに算定すべきとする見解
具体的相続分をもとに算定すべきとする見解
②-1 法定相続分に特別受益による修正を加えたものとする見解
②-2 法定相続分に特別受益のほか寄与分による修正も加えたものとする見解

(ⅱ)遺産分割が終了している場合
法定相続分をもとに算定すべきとする見解
具体的相続分をもとに算定すべきとする見解
②-1 法定相続分に特別受益による修正を加えたものとする見解
②-2 法定相続分に特別受益のほか寄与分による修正も加えたものとする見解
遺産分割の結果、現実に得た財産を控除して算定すべきとする見解

例えば、
判例タイムズ1345号34頁「遺留分減殺請求訴訟における遺留分算定について」(東京地方裁判所プラクティス委員会第三小委員会)の38~39頁部分では、
遺産分割未了の場合は、上記(ⅰ)①法定相続分をもとに算定すべきとする見解をとり、
遺産分割が終了している場合には上記(ⅱ)③遺産分割の結果、現実に得た財産を控除して算定すべきとする見解をとる
ことを明らかにしています。
この考え方は、未分割遺産については、それが実際にどのように分割されるかは未定であり、具体的相続分として算定される数額・割合は遺産分割をする際の単なる算定結果に過ぎず何ら権利性を持たないというところに根拠があります。

また、
「第3版 家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」(日本加除出版)527~528頁では、
遺産分割未了の場合は、上記(ⅰ)②-1 法定相続分に特別受益による修正を加えたものとする見解をとり、
遺産分割が終了している場合には上記(ⅱ)③遺産分割の結果、現実に得た財産を控除して算定すべきとする見解をとる
ものとしています。

(2)未分割遺産についての法定相続分による算定と具体的相続分による算定との違い
以下の例で、実際の算定結果の違い、逆転現象が生じる場合もあることについて確認したいと思います。


【遺産分割】
上記の例で遺産分割未了の遺産1500万円の遺産分割は、次のようになります。
未分割遺産1500万円+特別受益の持戻し分(生前贈与)1500万円=3000万円
Y 3000万円×1/2=1500万円
A 3000万円×1/4-1500万円=▲750万円
B 3000万円×1/4=750万円
(遺産分割による各自の取得分)
Y 1500万円×1500万円/(1500万円+750万円)=1000万円
A 0円
B 1500万円×750万円/(1500万円+750万円)=500万円

【遺留分侵害額の算定】
遺留分算定の基礎となる財産の価額
未分割遺産1500万円+生前贈与1500万円+遺贈9000万円=12,000万円
①法定相続分をもとにした算定
Y 12,000万円×1/4-1500万円×1/2=2250万円
A 12,000万円×1/8-1500万円×1/4-1500万円=▲375万円
B 12,000万円×1/8-1500万円×1/4=1125万円
②具体的相続分(特別受益のみを考慮)をもとにした算定
Y 12,000万円×1/4-1000万円=2000万円
A 12,000万円×1/8-0-1500万円=0円
B 12,000万円×1/8-500万円=1000万円

【最終取得額】
最終取得額=遺産分割+遺留分+生前贈与
①法定相続分をもとにした算定
Y 1000万円+2250万円=3250万円
A 0+0+1500万円=1500万円
B 500万円+1125万円=1625万円
②具体的相続分(特別受益のみを考慮)をもとにした算定
Y 1000万円+2000万円=3000万円
A 0+0+1500万円=1500万円
B 500万円+1000万円=1500万円

このように、上記のような例で①法定相続分をもとにした算定をすると、Aの最終取得額が1500万円となるのに対してBの最終取得額は1625万円となり、1500万円の生前贈与を受けていたAの方が、生前贈与を受けていないBよりも最終取得額が少なくなるという逆転現象が生じます。

(3)平成30年民法(相続法)改正後の算定方法

(ⅰ)立法による解決
平成30年の改正民法(相続法)は、以下のようにように規定し、遺産分割が未了であるか、終了しているかを問わず、上記②-1 法定相続分に特別受益による修正を加えたものとする見解をとるものとしました。
寄与分については考慮されません。改正民法第1046条第2項第2号では、寄与分についての民法第904条の2が引用されていません。

民法第1046条
2 遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。
二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

遺留分侵害額の算定式は以下のようになっています。
A 遺留分算定の基礎となる財産の価額
  =相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額-債務の全額
B 個別的遺留分の割合
  =総体的遺留分の割合×法定相続分の割合
遺留分侵害額
 =遺留分算定の基礎となる財産の価額(A)×個別的遺留分の割合(B)
 -特別受益(遺贈又は特別受益にあたる贈与)の価額
 -具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額
 +遺留分権利者が承継する債務の額

(ⅱ)立法の趣旨
遺産分割未了の場合について、遺留分侵害が問題となる事案においては、通常、生前贈与等の特別受益がある場合が多いにもかかかわらず特別受益を考慮しない(法定相続分説)とすると、その後に行われる遺産分割の結果との齟齬が大きくなり、遺贈を受けた相続人の最終的取得額が受けてない相続人のそれよりも少なくなるという逆転現象が生じることがあり相続人間の公平に反し、相当でないというところにあります。
遺産分割が終了している場合については、上記③遺産分割の結果、現実に得た財産を控除して算定すべきとする見解による実務上の取扱いもなされてきましたが、遺産分割手続の進行状況によって遺留分侵害額が変動し、それに応じて遺留分権者の権利の内容が変わるのは相当でないという理由から、具体的相続分をもとに算定するものとされました。
もっとも、具体的相続分の算定において、寄与分は家庭裁判所の審判により初めてその有無・額が決定されるものであり、権利の性質や実現するための手続が異なることなどから具体的相続分の算定にあたっては考慮しないとされています。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

 

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