葬儀費用や相続税を相続財産(遺産)から支払うことができるか |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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葬儀費用や相続税を相続財産(遺産)から支払うことができるか

遺産の範囲と調査

1 相続財産に関する費用の相続財産からの支出

民法第885条は、「相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。」と規定しています。
相続財産に関する費用は相続財産とは別個のものであるため遺産分割の対象とはなりませんが、その償還債務は相続債務に準ずるものとして各相続人が相続分に応じて負担することになります。
もっとも、相続人全員の合意があれば、遺産分割手続の中で清算することは可能です。
その清算について、相続人間で争いがあるときは、民事訴訟で解決されるべきこととなります。

 

2 葬儀費用

(1)葬儀費用の負担者
葬儀費用の負担者については、以下のような考え方があります。

①喪主を負担者とする考え方
法が祭祀の承継を相続とは別異に考えていることに対応して、葬儀費用の負担についても実質的に葬式を実施した者(通常は喪主)の負担とすべきという考え方です。
葬儀費用の一部負担とみうる香典が喪主に帰属するという解釈もこの考え方の根拠になります。

東京地方裁判所昭和61年1月28日判決(家月39巻8号48頁・判例時報1222号79頁)
は、次のように判示しています。

「相続財産に関する費用(民法885条)とは、相続財産を管理するのに必要な費用、換価、弁済その他清算に要する費用など相続財産についてすべき一切の管理・処分などに必要な費用をいうものと解されるのであつて、死者をとむらうためにする葬式をもって、相続財産についてすべき管理、処分行為に当たるとみることはできないから、これに要する費用が相続財産に関する費用であると解することはできない。」

「葬式は、死者をとむらうために行われるのであるが、これを実施、挙行するのは、あくまでも、死者ではなく、遺族等の、死者に所縁ある者である。したがつて、死者が生前に自己の葬式に関する債務を負担していた等特別な場合は除き、葬式費用をもつて、相続債務とみることは相当ではない。そして、必ずしも、相続人が葬式を実施するとは限らないし、他の者がその意思により、相続人を排除して行うこともある。また、相続人に葬式を実施する法的義務があるということもできない。したがって、葬式を行う者が常に相続人であるとして、他の者が相続人を排除して行つた葬式についても、相続人であるという理由のみで、葬式費用は、当然に、相続人が負担すべきであると解することはできない。」

「こうしてみると、葬式費用は、特段の事情がない限り、葬式を実施した者が負担すると解するのが相当であるというべきである。そして、葬式を実施した者とは、葬式を主宰した者、すなわち、一般的には、喪主を指すというべきであるが、単に、遺族等の意向を受けて、喪主の席に座つただけの形式的なそれではなく、自己の責任と計算において、葬式を準備し、手配等して挙行した実質的な葬式主宰者を指すというのが自然であり、一般の社会観念にも合致するというべきである。」

②相続財産の負担とする考え方
東京家庭裁判所昭和33年7月4日審判(家月10巻8号36頁)などがあります。

③相続人に法定相続分に応じて分割承継されるとの考え方
東京高等裁判所昭和30年9月5日決定(家月7巻11号57頁)などがあります。
上記の東京高裁決定は、「葬式費用ありとするも、これらは法律上当然にその遺産相続人たる・・・が各その法定相続分に応じて分割して承継するものであって、遺産分割の対象となる相続財産を構成するものでないと解するを相当とする」としています。

(2)葬儀費用の取扱い
葬儀費用の負担の問題は上記のように裁判例においても見解が分かれている問題であり、当然に相続財産(遺産)から支払われることにはなりません。上記②の相続財産の負担とする考え方をとっても、葬儀費用が当然に遺産分割審判の対象となるとするものではありません。
また、相続税についての取扱い(相続税13条1項2号は、相続財産の価額から被相続人に係る葬式費用を控除した価額につき、相続税が課税される旨規定している。)とは異なる問題ですので、注意が必要です。

上記考え方のうちでは喪主負担説が有力とされているようですが、葬儀費用が相続財産に関する費用に該当しないとの考え方を取ったとしても、葬儀を実施した者が葬儀会社やお寺(宗教法人)等との契約に基づいて支払った葬儀費用は、遺産分割手続外において、被相続人からの生前の委任があれば委任契約に基づく事務処理費用償還請求・代弁済請求(民法第650条第1項・第2項)に基づいて、生前の委任がない場合は事務管理に基づく有益費用償還請求・代弁済請求(民法第702条第1項・第2項)として相続人に対して請求することができると考えられます。

また、相続人間で合意したうえで、遺産分割協議や遺産分割調停において香典でカバーできない葬儀費用を相続財産から差し引いて遺産分割を行うことは可能です。

 

3 相続税

相続税は、民法第885条の「相続財産に関する費用」として相続財産(遺産)から支払いがなされるでしょうか。
相続税については、現行相続税法では遺産取得税方式がとられており(相続税法第2条)、相続財産を取得した相続人個人に課される相続人の債務と考えられますので、遺産からの支払いはされないことになります。その引当てになるのも相続財産に限られず、各納税義務者固有の資産も含まれます。
相続税を「相続財産に関する費用」ではないとする裁判例としては、仙台家庭裁判所古川支部昭和38年5月1日審判(家月15巻8号106頁)があります。

 

      【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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