養子縁組により複数の親族関係が生じ相続資格が重複した場合 |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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コラム

養子縁組により複数の親族関係が生じ相続資格が重複した場合

相続人の範囲と調査

1 養子縁組による複数の親族関係の発生

養子縁組により複数の親族関係が発生することがあります。
具体的には、以下のような場合です。

(1)孫養子の場合

甲の子がAとB、Aの子Xの場合において、甲を養親、Xを養子とする養子縁組(孫養子)をすると、
①甲とXの間には、
(ⅰ)祖父母と孫(直系血族2親等)
(ⅱ)養親と養子(直系血族1親等)
の2つの親族関係
②AとXの間には、
(ⅰ)父母と子(直系血族1親等)
(ⅱ)兄弟姉妹(傍系血族2親等)
の2つの親族関係
③BとXの間には、
(ⅰ)おじ・おばと甥・姪(傍系血族3親等)
(ⅱ)兄弟姉妹(傍系血族2親等)
の2つの親族関係
がそれぞれ存在することになります。

 

(2)配偶者の親との養子縁組(婿養子など)の場合

甲の子AがXと婚姻し、甲とXが養子縁組をすると、
AとXとの間には、
(ⅰ)配偶者
(ⅱ)兄弟姉妹
の2つの親族関係が存在することになります。

 

(3)非嫡出子を養子とする場合

甲乙が婚外子(非嫡出子)であるXと養子縁組(夫婦共同縁組)をすると、

甲とXとの間には、
(ⅰ)実親子関係(非嫡出子)
(ⅱ)養親子関係(嫡出子)
の2つの親族関係が存在することになるようにもみえますが、
Xの非嫡出子としての地位と養子としての地位は両立しえないため、Xには、身分の転換が生じて非嫡出子の身分を喪失し、養子として嫡出子の身分が残ると考えられます。

同様に、XとA、Bとの間には、
(ⅰ)半血兄弟姉妹(実親子関係による)
(ⅱ)全血兄弟姉妹(養子縁組による)
の2つの親族関係が存在することになるようにもみえますが、
Xは、甲乙との夫婦共同縁組によって半血兄妹姉妹としての身分を失い、全血兄弟姉妹としての身分が残ると考えられます。

かつては非嫡出子の法定相続分が嫡出子の2分の1とされていましたが、平成25年12月5日の民法の一部改正(同月11日公布・施行)により非嫡出子の法定相続分が嫡出子の法定相続分と同等になりましたので、非嫡出子を養子とする相続法上のメリットはなくなりました。もっとも、配偶者の未成年の非嫡出子を養子にする場合には夫婦共同養子縁組となるため(民法第795条)、自己の非嫡出子を養子とする必要性はなお残っています。

 

2 相続資格の重複が認められる場合

(1)同順位の相続資格が重複する場合
同順位の相続資格が重複する場合は、重複する相続資格が両立可能であれば、いずれか一方の資格を否定する根拠に乏しく両資格による相続を認めるべきであると考えられます。

(2)異順位の相続資格が重複する場合
異順位の相続資格が重複する場合は、重複する資格を同時に主張することはできないため、先順位の相続資格のみ認められます。

 

3 具体例

(1)孫養子の場合

①同順位の相続資格が重複する場合
Aが先に死亡し、その後に甲が死亡した場合の甲の相続に関し、Xは、
(ⅰ)甲の養子
(ⅱ)A(被代襲者)の代襲相続人
の資格を有することになります。
先例(昭和26年9月18民事甲第1881号民事局長回答)や通説は、二重の相続資格を肯定しています。
したがって、法定相続分は、
Xが3分の2(養子分3分の1+代襲相続分3分の1)
Bが3分の1
となります。

②異順位の相続資格が重複する場合
A死亡の場合、Aの相続に関し、Xは、
(ⅰ)Aの子
(ⅱ)Aの兄弟姉妹
としての2つの相続資格を同時に主張することはできず、先順位の(ⅰ)Aの子としての相続資格のみが認められます。

 

(2)配偶者の親との養子縁組(婿養子など)の場合

甲が先に死亡し、その後にAが死亡した場合のAの相続に関し、Xは、
(ⅰ)Aの配偶者
(ⅱ)Aの兄弟姉妹
の資格を有することになります。

先例(昭和23年8月9日民事甲第2371号民事局長回答)は二重の相続資格を否定しています。
甲とXの縁組は、家業や家産の承継者として養子にするいわゆる婿養子であることが多く、縁組に際してXは甲の相続を期待しているとしても、通常は、Aの兄弟姉妹としての相続を期待していないと考えられるため、XにはAの配偶者としての相続資格のみを認めれば足りると考えられることは否定説の根拠となり得ます。
否定説によれば、法定相続分は、
Xが4分の3
Bが4分の1
となります。

他方で、近時は、二重の資格を肯定する考え方も優勢となりつつあります。
重複する相続資格が両立可能であれば、いずれか一方の資格を否定する根拠に乏しく両資格による相続を認めるべきであり、相続資格(法定相続分)について、実質的な考慮をすべきではないということが肯定説の根拠となります。
肯定説によれば、法定相続分は、
Xが8分の7(配偶者分4分の3+兄弟姉妹分8分の1)
Bが8分の1
となります。

 

(3)非嫡出子を養子とする場合

甲が死亡した場合、甲の相続に関して、
Xは、実子としての法定相続分と養子としての法定相続分の双方を有するのかが問題となります。
先例(昭和43年8月5日民事甲第2688号民事局長回答)・通説は、二重の相続資格を否定しています。
Xの非嫡出子としての地位と養子としての地位は両立しえないため、Xには、養子縁組により身分の転換が生じて非嫡出子の身分を喪失し、養子として嫡出子の身分が残ると考えられます。
したがって、相続資格の重複の問題は起こらないと考えれます。
法定相続分は
乙が2分の1
Xが6分の1
Aが6分の1
Bが6分の1
となります。

甲乙が死亡後、Aが死亡し、Aの相続に関して、
Xは、半血兄弟姉妹(実親子関係による)としての法定相続分と全血兄弟姉妹(養子縁組による)としての法定相続分の双方を有するのかが問題となります。

これについても、Xは、甲乙との夫婦共同縁組によって半血兄妹姉妹としての身分を失い、全血兄弟姉妹としての身分が残ると考えられます。
したがって、相続資格の重複の問題は起こらないと考えれます。
法定相続分は
Xが2分の1
Bが2分の1
となります。

 

                    【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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