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遺留分侵害額を算定する際の承継債務(債務負担)額の計算方法

遺留分

遺留分侵害額の算定式

遺留分侵害額の算定は、以下の計算式で行います。

①遺留分算定の基礎となる財産の価額
 =相続開始時の財産の価額+贈与した財産の価額-債務の全額
②個別的遺留分の割合
 =総体的遺留分の割合×法定相続分の割合
③遺留分侵害額
 =遺留分算定の基礎となる財産の価額(①)×個別的遺留分の割合(②)
 -特別受益(遺贈又は特別受益にあたる贈与)の価額(④)
 -具体的相続分に応じて取得すべき遺産の価額(⑤)
 +遺留分権利者が承継する債務の額(⑥)

 

承継債務(債務負担)額とは

相続債務については、金銭債務その他の可分債務は法律上当然分割され、各相続人がその相続分に応じてこれを承継するものとされているところです。
他方で、遺言で相続債務の負担者が指定されていたり、相続債務の負担者を誰とするかについて相続人間で合意がされている場合もあります。
しかし、被相続人の意思(遺言による負担者の指定)や相続人間の合意だけでは債権者との関係では相続債務の負担割合を変更することはできないため、遺留分権利者が法定相続分に応じた相続債務の弁済を債権者から求められた場合は、これを拒むことはできません。そこで、遺留分侵害額の算定式における⑥の遺留分権利者が承継する債務の額をどのように計算するかが問題となります。

 

最高裁判所の判例

この問題に関係する最高裁判所の判例(最高裁判所平成21年3月24日判決・民集63巻3号427頁)があります。
以下、順序を変えてありますが、判例の引用です。

相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり、これにより、相続人間においては、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。
遺留分の侵害額は、確定された遺留分算定の基礎となる財産額に民法1028条所定の遺留分の割合を乗じるなどして算定された遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産の額を控除し、同人が負担すべき相続債務の額を加算して算定すべきものであり(最高裁平成5年(オ)第947号同8年11月26日第三小法廷判決・民集50巻10号2747頁参照)、その算定は、相続人間において、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって、相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ、当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。
遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は、相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには、これに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。
遺留分権利者が相続債権者から相続債務について法定相続分に応じた履行を求められ、これに応じた場合も、履行した相続債務の額を遺留分の額に加算することはできず、相続債務をすべて承継した相続人に対して求償し得るにとどまるものというべきである。

結論として、この最高裁判所の判決は、相続人間の問題と対債権者との問題を分けて考え、遺留分侵害額の算定は相続人間の問題であり、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきであるとして、特定の相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合、遺留分の侵害額の算定においては、遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないとの判断をしています。

 

現在の実務の考え方

現在の実務もこの考え方にしたがって運用されており、東京地方裁判所プラクティス委員会第三委員会「遺留分減殺請求訴訟における遺留分算定について」(判例タイムズ1345号34頁)も「相続債務は、負担者の指定又は合意がない場合には法定相続分に応じて当然に分割された額を、同指定又は合意がある場合には個別負担額とされた額を合計する」としています。

したがって、相続債務の負担者について指定や合意がある場合は、遺留分侵害額の算定において法定相続分に応じて当然に分割された額を加算することはできず、債権者から法定相続分に応じた履行を求められて弁済をした場合でも、相続債務を承継した相続人に対して求償し得るにとどまるということになります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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