法定後見と任意後見との関係(優劣) |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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法定後見と任意後見との関係(優劣)

後見・保佐・補助

法定後見制度と任意後見制度が競合したときに、両者の関係がどのようになるかが問題となります。

結論から言いますと、この点は、任意後見契約に関する法律において、(1)法定後見人と任意後見人とが同時に併存することは認めないこと、(2)任意後見制度が原則的に法定後見制度に優先することとして、両制度の調整が図られています。
このうち(2)の任意後見制度優先の原則は、任意後見制度による保護を選択した本人の意思(自己決定)を尊重する点に根拠があるとされています。

 

目次

1 任意後見制度が先行している場合の規律

上図のような任意後見が先行している場合については、任意後見契約に関する法律第10条第1項に定めがあります。

(後見、保佐及び補助との関係)
第10条 任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2 前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3 第4条第1項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

任意後見が先行する場合は、原則として任意後見が優先し、法定後見・保佐・補助開始の申立は却下されることになります。
しかし、例外的に、家庭裁判所が「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」は、法定後見開始の審判等をすることができます(任意後見契約に関する法律第10条第1項)。

任意後見が先行している場合については、上図のように、
1)任意後見監督人が未だ選任されておらず任意後見契約が発効していない場合
2)任意後見監督人が選任され任意後見契約が発効している場合
があります。
法定後見開始の審判等がなされたときは、
(2)の場合は任意後見契約は終了しますが(任意後見契約に関する法律第10条第3項)、(1)の場合は法定後見人と任意後見人の同時存在は生じておらず、任意後見契約に関する法律第10条第3項の反対解釈として任意後見契約は存続します。

例外的に、家庭裁判所が「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」とはどのような場合かが問題となります。

この点に関して以下のような裁判例があります。

大阪高等裁判所平成14年6月5日決定・家庭裁判月報54巻11号54頁
「これら契約が、人違いや行為能力の欠如により効力が生じないのであれば、『本人の利益のため特に必要がある』かどうかについて判断するまでもなく本人両名につき保佐を開始してよいことになる」
「ここでいう『本人の利益のため特に必要がある』というのは、諸事情に照らし、任意後見契約所定の代理権の範囲が不十分である、合意された任意後見人の報酬額が余りにも高額である、法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある等、要するに、任意後見契約によることが本人保護に欠ける結果となる場合を意味すると解される。」

この裁判例によれば、
①代理権の範囲が狭く、かつ本人の判断能力の減退・喪失により追加的な代理権の授与が困難な場合(代理権の不足)
②合意された任意後見人の報酬額が余りにも高額である場合(契約内容の不当性)
③法4条1項3号ロ、ハ所定の任意後見を妨げる事由がある場合(任意後見人受任者の不適格性)
などが「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」にあたるとされています。

このほかにも、
立法担当官が指摘している事由として、
④任意後見人に与えられていない同意権・取消権によって本人保護を図る必要がある場合(行為能力制限の必要性)
があり、
それ以外にも、
⑤任意後見契約に無効事由(意思能力、錯誤)、取消事由(詐欺、強迫)等がある蓋然性が非常に高い場合(契約の瑕疵に関する事由)
⑥本人が法定後見制度の利用を優先する意思を表示している場合
などの場合が問題となり得ます。

 

2 法定後見制度が先行している場合の規律

上図のような法定後見が先行している場合は、任意後見契約に関する法律第4条第1項第2号に定めがあります。

(任意後見監督人の選任)
第4条 任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障害により本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族又は任意後見受任者の請求により、任意後見監督人を選任する。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 本人が未成年者であるとき。
二 本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人である場合において、当該本人に係る後見、保佐又は補助を継続することが本人の利益のため特に必要であると認めるとき。
三 任意後見受任者が次に掲げる者であるとき。
イ 民法(明治二十九年法律第八十九号)第八百四十七条各号(第四号を除く。)に掲げる者
ロ 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
ハ 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者
2 前項の規定により任意後見監督人を選任する場合において、本人が成年被後見人、被保佐人又は被補助人であるときは、家庭裁判所は、当該本人に係る後見開始、保佐開始又は補助開始の審判(以下「後見開始の審判等」と総称する。)を取り消さなければならない。

この場合にも任意後見制度優先の原則が定められています(任意後見契約に関する法律第4条第1項)。
家庭裁判所は、任意後見監督人を選任して任意後見契約を発効させた上で、法定後見開始の審判等を取り消して法定後見を終了させることになります(任意後見契約に関する法律第4条第2項)。

ただし任意後見が先行している場合(任意後見契約に関する法律第10条第1項の場合)と同様、法定後見の継続が「本人の利益のため特に必要であると認めるとき」は、例外的に、家庭裁判所は、任意後見監督人選任の申立てを却下して(任意後見契約に関する法律第4条第1項第2号)、法定後見を継続させることができます。

任意後見契約に関する法律第4条第1項第2号の「本人の利益のため特に必要であると認めるとき」の解釈は、同法第10条第1項の「本人の利益のため特に必要があると認めるとき」と同趣旨であると考えられますが、同条第10条第1項のところであげた任意後見人受任者の不適格性(上記③)については、同法第4条第1項では第3号で別途規定が設けられているため、第2号の解釈には含まれないという相違があります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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