コラム | 東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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遺留分請求による不動産の取得と小規模宅地等特例の適用

遺留分

1 民法改正による遺留分制度の変更

平成30年の民法改正で遺留分制度が変わりました。
改正前の民法では、遺留分請求(遺留分減殺請求)は、それをすることによって遺贈や贈与が無効となり、遺贈や贈与の対象とされた財産に対する権利が遺留分減殺請求者に移転する物権的効力を持つとされていました。その結果、遺留分減殺請求者と減殺請求を受けた者との間で財産の共有関係が生じることも多くあります。
これに対して、改正後の民法では、遺留分請求(遺留分侵害額請求)から生ずる権利は金銭債権化されることとされました(民法1046条1項)。これにより財産が共有状態になることを避けることが可能となりました。
改正法は令和元年7月1日以後に開始した相続から適用されています。

2 遺留分請求(遺留分減殺請求、遺留分侵害額請求)がされた場合の相続税法の規律

平成30年の民法改正前の遺留分減殺請求に関して、相続税法では、申告期限後に遺留分減殺請求に基づいて返還すべき額や弁償すべき額が確定した場合は、その事由が生じたことを知った日の翌日から4カ月以内に更正の請求をすることができ(旧相続税法32条1項3号)、遺留分減殺請求を行って財産を取得することが確定した場合には、その取得した相続人は、期限後申告や修正申告ができる(相続法30条1項、31条1項)こととされ、期限後申告や修正申告がない場合は、税務署長が決定又は更正をすることができることとされていました(相続法35条3項)。
民法改正により「遺留分による減殺の請求」が「遺留分侵害額の請求」と変更されたことに伴い、期限の定めなく更正の請求ができる事由について「遺留分による減殺の請求に基づき返還すべき、又は弁償すべき額が確定したこと」が「遺留分侵害額の請求に基づき支払うべき金銭の額が確定したこと」と改正されました(相続法32条1項3号)。

3 遺留分請求(遺留分減殺請求、遺留分侵害額請求)に伴う小規模宅地等の特例の対象地の変更

【設例】
被相続人A、相続人は長男Bと二男Cの2名とします。
Aの遺産のうち、甲宅地(特定居住用宅地等)と乙宅地(特定事業用宅地等)は長男Bが遺贈により取得し、相続税の申告に当たって乙宅地について小規模宅地等の特例を適用して期限内に申告したとします。
その後、二男Cから遺留分減殺請求がなされ、乙宅地は二男Cが取得することになったとします。

この場合、小規模宅地等の特例適用の対象宅地について、長男Bは更正の請求において甲宅地とし、二男Cは修正申告において乙宅地とすることができるかという問題があります。

(1)令和元年7月1日より前に開始した相続の場合(法改正前の民法が適用)
この点については、当初の相続税申告における小規模宅地等の特例の適用について何らかの瑕疵がない場合には、その後、その適用対象宅地の選択換えをすることは許されないこととされています。
しかし、上記の設例の場合は、遺留分減殺請求という相続固有の後発的事由に基づいて、長男Bが当初の相続税申告に係る土地(乙宅地)を遺贈により取得できなかったことになるため、更正の請求において甲宅地について同条を適用することはいわゆる選択換えにはあたらないとされています。

上記の設例では次のようになります。
長男Bの小規模宅地等の対象地を甲宅地とする変更は、更正の請求において認められます。
当初の相続税申告において小規模宅地等の対象地を選択しなかった二男Cについても、同様に、修正申告において、小規模宅地等の対象地を乙宅地とすることが認められます。

(2)令和元年7月1日以後に開始した相続の場合(法改正後の民法が適用)
上記のように平成30年の民法改正により遺留分制度が変わり、遺留分侵害額請求から生ずる権利が金銭債権化されることとなりました。
その結果、遺留分侵害額請求の金銭の支払いに代えて、遺留分権利者が遺贈の対象となった財産を取得した場合、その取得は相続によるものではなく代物弁済によるものとなります。
したがって、遺留分権利者は、その宅地等の取得について、相続税法の制度である小規模宅地等の特例の適用を受けることはできません。
さらに、遺留分権利者からの遺留分侵害額請求に対して、受遺者が金銭の支払いに代えて特例対象宅地等を交付したのが申告期限前である場合は、相続税の申告期限までの保有要件を満たさなくなるため、受遺者についても小規模宅地等の特例の適用を受けることができなくなります。

上記の設例では次のようになります。
長男Bが申告期限までの保有要件を満たしていることを前提に、長男Bが乙宅地について小規模宅地等の特例の適用を受けられるにとどまります。
乙宅地の長男Bから二男Cへの譲渡については、長男Bへの譲渡所得の課税対象となります。
二男Cについては、遺留分侵害額請求による金銭債権額が相続税の課税対象となり、乙宅地自体は課税対象とはなりません。
乙宅地の所有権移転登記にかかわる登録免許税には相続の場合の税率は適用されず、不動産取得税の課税も問題となります。

もっとも、遺留分権利者がその特例対象宅地等を遺留分侵害額請求により代物弁済として取得する場合は、上記のように小規模宅地等の特例の適用がありませんが、遺言と異なる遺産分割協議を行って遺留分権利者が特例対象宅地を取得した場合は、小規模宅地等の特例の適用が可能となります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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