遺産分割までの不動産の賃料収入は誰に帰属するか
遺産分割
目次
- 1 1 相続開始後の賃料債権は遺産か
- 2 2 遺産分割の遡及効と相続開始後の賃料債権の帰属
- 3 3 平成17年9月8日の最高裁判決
- 3.1 遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属する
- 3.2 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
- 4 4 相続人間での相続開始後の賃料収入の精算
1 相続開始後の賃料債権は遺産か
遺産の中に賃貸不動産がある場合、相続開始後も賃料収入が発生し続けます。
遺産分割協議においては、相続開始後の賃料債権の帰属についても決められることは多いと思われますが、相続開始後の賃料債権の帰属について相続人間で合意が成立できない場合は、相続開始後の賃料債権は遺産そのものではないため遺産分割の対象にはならず、遺産分割審判において相続開始後の賃料債権の帰属について判断されることもありません。
2 遺産分割の遡及効と相続開始後の賃料債権の帰属
遺産分割の対象となった賃貸不動産から得られた賃料収入について、相続開始時から遺産分割によって不動産の帰属が決まるまでの賃料債権は誰に帰属するのでしょうか。
この問題については、賃料債権などの法定果実が遺産にあたるかという問題のほか、遺産分割の遡及効も問題となります。遺産分割の遡及効とは、遺産分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生じ、 各相続人が分割によって取得した財産は相続開始時に被相続人から直接承継したことになるという効果です(民法909条)。
相続開始後の賃料債権の帰属については、大別して以下の二つの考え方があり得ます。
(1)不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時に遡って遺産分割により不動産を取得した相続人に帰属するという考え方
(2)不動産から生じた賃料債権は、遺産分割の日までは法定相続分に従って各相続人に帰属するという考え方
3 平成17年9月8日の最高裁判決
この問題については、最高裁判決(最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁)が結論を出しています。
この最高裁判決の原審である大阪高判平成16年4月9日は以下のように判示して、上記(1)の結論をとりました(以下は上記最高裁判決の判示中の原審の判示内容の要約)。
遺産から生ずる法定果実は、それ自体は遺産ではないが、遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属するのであるから、遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる。そうすると、本件各不動産から生じた賃料債権は、相続開始の時にさかのぼって、本件遺産分割決定により本件各不動産を取得した各相続人にそれぞれ帰属する
この大阪高裁の判決は、
①遺産から生ずる賃料等の法定果実はそれ自体は遺産ではない
②遺産の所有権が帰属する者にその果実を取得する権利も帰属する
③遺産分割の効力が相続開始の時にさかのぼる以上、遺産分割によって特定の財産を取得した者は、相続開始後に当該財産から生ずる法定果実を取得することができる
との理論構成から成り立っています。
しかし、最高裁判決は以下のように判示して、上記(2)の結論をとっています。
遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当である。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けないものというべきである。
この最高裁判決は、
①遺産から生じた相続開始から遺産分割までの間の賃料等の果実は、相続開始によって共有となった遺産を使用管理した結果得られるものであり、遺産とは別個の共同相続人の共有財産である
②賃料債権は可分債権であるから当然に分割されて、共同相続人が遺産の共有持分である法定相続分に応じて分割単独債権として取得する
③分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は後になされた遺産分割の効力を受けない
との理論構成から成り立っています。
この最高裁判決により、この問題については、上記(2)の考え方によることで実務上決着がついたといえます。
4 相続人間での相続開始後の賃料収入の精算
もちろん、遺産分割協議等において相続人間で合意をすれば、これと異なる取扱いをすることも可能であることは既に述べたとおりです。しかし、合意がない場合は、遺産分割による賃貸不動産の取得者と、相続開始から遺産分割までの賃料の取得者とが異なってしまう可能性があり注意が必要です。
相続人のうちの一人が賃料を取得したまま他の相続人に返還しようとしない場合は、他の相続人は、不当利得返還請求訴訟を提起することによって、法定相続分に応じた回収をすることになります。
【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】
監修
菅野綜合法律事務所
弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属
弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。