コラム | 東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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相続放棄の撤回

相続放棄・限定承認

1 相続放棄の撤回とは

相続放棄の撤回は、相続放棄の取消しや相続放棄の無効とは異なります。
撤回とは、取消原因や無効原因に基づかず、一方的な意思表示によって既に行った法律行為や意思表示をなかったことにすることです。
例えば、
・被相続人に多額の負債があり債務超過になると思って相続放棄をしたところ、後になって多額の財産が見つかってプラスになることが判明した
・他の相続人に遺産を相続させるために相続放棄をしたが、後に状況が変わり、やはり遺産を取得したいと考えるようになった
等の場合が想定されますが、相続放棄に取消原因や無効原因がなくこれらのような状況になった場合は、すでに行ってしまった相続放棄の手続を撤回することはできるのかということが問題となります。

2 相続の承認・放棄の撤回の禁止

民法919条1項は、相続の承認・放棄をいったん行った場合は、民法915条1項の熟慮期間(原則として相続開始があったことを知った時から3か月の期間)内でも撤回することはできないと定めています。
相続の承認・放棄により多数の者に利害関係が生じることから、相続人がいったん相続の承認・放棄をした以上は相続関係はそれにより確定するものとして、撤回を許さないというのがその趣旨であるとされています。

3 申述受理前の撤回は許されないか

(1)相続放棄申述受理の手続
相続放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません(民法938条)。
家庭裁判所になされた相続放棄申述についての審理は、申述書と申述者が提出した資料に基づいて行われ、必要に応じて申述者に対する審問や事実調査が行われます。
相続放棄申述受理の審判は、申述書に受理の旨が記載されたときに効力が生じるものとされ、審判書は作成されません(家事事件手続法210条7項・8項)。
審判について告知はされず、審判後、裁判所書記官から当事者・利害関係参加人に通知がなされます(家事事件手続法規則106条2項、相続放棄申述受理通知書)。必要な場合は申請により相続放棄申述受理証明書が交付されます。
相続放棄申述受理のためにはこのような手続をとるため、申述者が申述を行う家庭裁判所から遠方にいる場合などは意思確認等のために相応の時間が必要となり、申述書を提出してから相続放棄申述受理がされるまでの間、ある程度の日数がかかることになります。したがって、申述を熟慮期間内に行っても、相続放棄の申述受理がされるのは熟慮期間経過後になるということは通常あり得ることです。

(2)熟慮期間内の撤回
相続放棄の申述受理前であれば、熟慮期間内に撤回をすることは許されると解されています。
相続放棄の申述は、申述受理の審判により申述の受付時にさかのぼって効力を生じるところ、申述受理の審判があるまでは任意に申述の撤回ができると考え、撤回の禁止を定めた民法903条1項は、いったん相続放棄の申述が受理された後は撤回を許さないことを定めたにとどまると解することになります。
相続放棄の撤回を否定した判例として最高裁判所昭和37年5月29日判決(民集16巻5号1204頁)も、「民法919条1項の規定に照し、一度受理された相続放棄の撤回は許されない」と「受理」後の撤回が禁止されるとしています。

(3)熟慮期間経過後の撤回
実務では熟慮期間が経過した後であっても、相続放棄の申述受理前であれば、撤回を認めたものがあるようです。
上記のように相続放棄の申述から申述受理までの間に相当期間が経過し、その間に熟慮期間が経過する可能性があることを考えると、熟慮期間経過の前後で撤回の可否を分ける合理性はないと思われます。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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