小規模宅地等の特例~遺産分割で揉めたときはどうするか~ |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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小規模宅地等の特例~遺産分割で揉めたときはどうするか~

相続税

1 相続税の軽減措置

平成27年1月1日より相続税の基礎控除額の見直しが行われ、基礎控除額は、
3000万円+法定相続人の人数×600万円
となりました。
都内や近郊に一軒家などの不動産がある場合は、容易に相続税の課税対象者となり得ます。
ただ、小規模宅地等についての課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)などの活用できる相続税の軽減措置があります。

2 小規模宅地等の特例制度

小規模宅地等についての課税価格の計算の特例(租税特別措置法69条の4)とは、どのような制度でしょうか。
この制度は、個人が、相続や遺贈により取得した財産のうち、相続開始の直前に被相続人や被相続人と生計を同じくしていた親族等の居住の用に供されていた宅地等のうち(事業の用に供されていた宅地等も含みます。)、一定のものについて、限度面積までの部分(居住用宅地等の場合は330㎡まで)は、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額するという制度です。
居住用宅地等については2割まで減額(減額分が8割)されますので、相続税の課税対象になるかどうかについて、この制度は重要な役割を果たしています。

3 特例の適用を受けるためには、原則として申告期限までに遺産分割がされており申告をすることが必要

この特例の適用を受けるためには、相続税の申告書に、この特例を受けようとする旨を記載するとともに、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を申告書に添付することが必要です。
つまり、計算した結果、この特例を使うと相続税の基礎控除額の範囲内なので相続税の申告の必要はないと考えて申告をしないと、この特例の適用は受けられなくなってしまいますので、注意が必要です。

租税特別措置法69条の4第4項には、以下のような定めがあります。
「第1項の規定は、同項の相続又は遺贈に係る相続税法第27条の規定による申告書の提出期限(以下この項において「申告期限」という。)までに共同相続人又は包括受遺者によつて分割されていない特例対象宅地等については、適用しない。」

相続税法第27条の規定による申告書の提出期限(申告期限)は相続が開始してから10か月以内ですが、この間に相続税の申告をして、小規模宅地等に係る計算の明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付する必要があるということになります。

4 申告期限までに遺産分割ができない場合

問題なのは、遺産分割について相続人間で揉めたまま、相続税の申告期限までに遺産分割協議が成立せず、遺産分割協議書などの必要書類を相続税の申告書に添付できない場合にどうするかということです。

(1)いったんは特例無しでの申告・納税
租税特別措置法69条の4第4項には、「第1項の規定は、申告期限までに分割されていない特例対象宅地等には適用しない。」とありますから、いったんは特例無しでの相続税の申告と納税をしなければなりません。

(2)申告期限から3年以内の遺産分割
もっとも、租税特別措置法69条の4第4項ただし書きには、以下のような定めがあります。
「ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。」

つまり、相続税の申告期限から3年以内に分割されれば、この特例を適用して相続税額を再計算して更正の請求を行い、還付を受けることができます。

もっとも、申告期限後3年以内の分割となる場合には、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を添付する必要があるので(相続税法19条の2第3項等)、注意が必要です。
この書面には、「分割されていない理由」や「分割の見込みの詳細」を記さなければなりません。
「分割されていない理由」としては、遺産分割調停中などの場合は、「裁判所で遺産分割調停中であるため。」と記載すればよいことになります。

(3)申告期限から3年経過しても遺産分割ができない場合
さらに、遺産分割で揉め、申告期限後3年を経過しても解決できない場合もあり得ます。

租税特別措置法69条の4第4項ただし書きには、以下のような定めがあります。
「ただし、その分割されていない特例対象宅地等が申告期限から3年以内(当該期間が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかつたことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合において、政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該特例対象宅地等の分割ができることとなつた日として政令で定める日の翌日から4月以内)に分割された場合(当該相続又は遺贈により財産を取得した者が次条第一項の規定の適用を受けている場合を除く。)には、その分割された当該特例対象宅地等については、この限りでない。」

この規定によれば、
①申告期限から3年が経過するまでの間に当該特例対象宅地等が分割されなかったことにつき、当該相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたことその他の政令で定めるやむを得ない事情がある場合
②政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたとき
③当該特例対象宅地等の分割ができることとなった日として政令で定める日の翌日から4月以内に分割された場合
は、なお特例の適用が可能となります。

上記①の政令で定めるやむを得ない事情がある場合については、相続税法施行令第4条の2第1項の規定を準用し、
上記②の政令で定めるところによる納税地の所轄税務署長の承認については、相続税法施行令第4条の2第2項から第4項までの規定を準用し、
上記③の分割ができることとなつた日として政令で定める日については、相続税法施行令第4条の2第1項の規定を準用する
とされています(租税特別措置法施行令40条の2)。

これらを受けて、
上記①の政令で定めるやむを得ない事情がある場合の1つとして、「当該相続又は遺贈に係る申告期限の翌日から3年を経過する日において、当該相続又は遺贈に関する和解、調停又は審判の申立てがされている場合」があげられ(相続税法施行令第4条の2第1項第2号)、
その場合の
上記③の分割ができることとなった日として政令で定める日については、「和解若しくは調停の成立、審判の確定又はこれらの申立ての取下げの日その他これらの申立てに係る事件の終了の日」とされています(相続税法施行令第4条の2第1項第2号)。
また、上記②の政令で定めるやむを得ない事情があることにより税務署長の承認を受けようとする者は、当該相続又は遺贈の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月を経過する日までに、その事情の詳細その他財務省令で定める事項を記載した申請書を当該税務署長に提出しなければならないとされています(相続税法施行令第4条の2第2項)。

したがって、相続税の申告期限後3年以上を経過しても遺産分割がまとまらない場合については、遺産分割調停、審判等の裁判手続が行われていることが、特例を認めてもらううえで極めて有効となってきます。

この問題は法律と税務が絡む複雑な問題を含んでおり、期限の問題もあるので、タイムリーに適切な措置を講じる必要があります。
特に、遺産分割で揉めて長期化しそうな場合には、弁護士、税理士などの専門家の助力を得るのが賢明と思います。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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