相続放棄と被相続人の死亡による損害賠償請求 |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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コラム

相続放棄と被相続人の死亡による損害賠償請求

相続放棄・限定承認

1 相続放棄をした妻による夫の死亡についての損害賠償請求

夫を交通事故でなくしたが、夫には多額の借金があったので妻が相続放棄をしたという場合、妻が夫の死亡についての損害賠償をすることができるかという問題があります。
遺族の損害賠償請求権の法的構成については被害者の損害倍請求権を相続により取得したと考えるのが一般的です。
したがって、相続放棄をした妻は、相続を放棄をしている以上、夫の損害賠償請求権を相続によって取得することはできません

2 扶養利益の喪失(侵害)

しかし、裁判例には、夫の損害賠償請求権の相続という構成ではなく、扶養利益の喪失(侵害)という概念を用いて、夫の逸失利益のうちの一定部分を、妻の扶養利益の喪失として請求することを認めているものがあります。
横浜地判平成25年5月27日・交通民集46巻3号667頁は、
交通事故により死亡した被害者(54歳の男性会社員)の相続放棄をした妻について、固有の損害として、扶養による利益を喪失したことが認められ、被害者と妻の収入や生活状況に照らすと、被害者の妻の扶養逸失利益は被害者の逸失利益の40パーセントに相当する額であると判断しています。

3 内縁配偶者に関する判例

上記の相続放棄した事案で扶養利益の喪失を認めた裁判例は、死亡した被害者の内縁配偶者(相続人ではない)に扶養利益の喪失を認めた最高裁の判例(最高裁判所平成5年4月6日判決・民集47巻6号4505頁)と同様の考え方に基づくものです。
最高裁判所平成5年4月6日判決・最高裁判所民事判例集47巻6号4505頁は、
「内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において、その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の喪失を損害として、保有者に対してその賠償を請求することができるものというべきである」
としています。
この最高裁判所の判例は、遺族の損害賠償請求権の法的構成について、相続説と扶養利益喪失(侵害)説があるところ、内縁の配偶者の扶養利益喪失による損害賠償請求を最高裁判所としてこれを認めた点に意味があるとされています。

4 認められる扶養利益の喪失(侵害)による損害額

扶養利益の喪失(侵害)による損害は、扶養が被害者の収入からされるものである点に鑑み、被害者の逸失利益の中から認められることになります。したがって、相続構成の場合と異なり、逸失利益、慰謝料、その他の損害を全て合計したものについて認められるということにはなりません。
また、認められる額は、扶養の実態によってケースバイケースになると思われます。
必ずしも被害者の逸失利益全額には及ぶものではない点が、相続構成の場合と異なる点です。
扶養の実態についての主張・立証が重要になってきます。

5 慰謝料について

慰謝料については、死亡の場合、本人分と近親者固有の分とが認められますが、後者については本人分を相続するという構成をとらないため、相続放棄をしていても認められる可能性があります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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