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相続放棄をしても特別縁故者となりうるか

特別縁故者に対する相続財産の分与

1 相続放棄をしたものの債務超過にならなかった場合

被相続人に資産はあるものの、負債はあるのか、あるいは、負債があることはわかるがどれくらいの金額か、すぐには見当がつかない場合があります。
このような場合には、よくわからないままとりあえず相続放棄をしてしまう例も少なくないかと思います。
仮に、負債がそれほど多くなく、結果的に相続財産に余剰が出ることになれば、相続財産は最終的に国庫に帰属することとなります。相続放棄を選択したのが結果的に間違いであったと後悔する場合もあると思われます。

2 相続放棄をした相続人は特別縁故者となり得るか(一般論)

このような場合に、いったん相続放棄をしてしまったものの、相続債権者や受遺者に弁済をした後、まだ相続財産に余りがある場合に、国庫帰属の前の段階で、相続放棄をした相続人が特別縁故者として相続財産の分与を求めることができるかという問題があります。

この問題については、本来、負担やリスクを伴う限定承認という手続を行うべきであるにもかかわらず、そのような手続を取らなかったことを考慮して特別縁故者になり得るとすることに疑問を呈する見解もあります。
しかし、一般的には、法律上特に制限がない以上、相続放棄をした相続人も特別縁故者となり得ると解されているようです。

相続放棄をした相続人を特別縁故者と認めた裁判例としては以下のものがあります。
広島高裁岡山支部平成18年7月2日決定・家月59巻2号132頁
結論として、民法958条の3第1項所定の特別縁故者にあたると認められ、その財産全てを分与するのが相当であるとしていますが、事実関係は以下のとおりです。
(1)被相続人は,平成13年10月14日死亡、相続が開始したが,法定相続人全員が相続を放棄したため、相続人が不存在となった。
(2)被相続人の債権者が、平成15年2月6日、岡山家庭裁判所に対し相続財産管理人選任の申立てをし、同年7月9日付けで相続財産管理人が選任され、その後、平成16年10月29日、相続人捜索の期間が満了したが、権利を主張する者はいなかった。
(3)被相続人の長男が、平成16年12月1日、相続財産分与の申立てをした。
(4)被相続人の長男は、被相続人の唯一の子供である。被相続人の長男は、出生以来平成4年12月に被相続人の妻が亡くなるまで、被相続人と同居生活をし、その後平成5年に婚姻して現住所で生活するようになったが、被相続人宅は自己の職場の近所であったこともあって、3日に一度は被相続人宅を訪ね、被相続人の生活に気遣っていた。被相続人は、平成12年ころから肺ガンで入院生活を送るようになったが、約1年間の入院期間中毎月5ないし6万円の入院費用を支払い、週に1度は見舞いに行っていた。被相続人の葬儀も執り行った。
(5)被相続人の長男は、被相続人の死亡後間もないころから、同人と生前に交際していたと主張する債権者から被相続人の負債について執拗に弁済を求められたため、債権者ないしその関係者から際限のない請求がされることを危惧し、平成13年10月22日相続放棄の申述をしたが、相続財産についての清算が終了したので相続財産分与の申立てを行った。

3 特別縁故者と認められるためには単に法定相続人であるというだけでは足りない(具体的事案での判断)

ただ、相続放棄をした法定相続人が一般論として特別縁故者になり得るとしても、具体的な事案において特別縁故者と認められるためには、単に相続人であるということのみでは足りず、相続人でない者と同様に、具体的、現実的な縁故関係の有無や程度によって特別縁故者となるかどうか判断されることになります。
上記の広島高裁岡山支部の裁判例の事案は、限定承認で対応できた事例であったと考えられ、そのような事案の場合は、特別縁故者に該当するか否かを認定することについてはより慎重な判断が求められるという意見もあります。
一般論として相続放棄をした法定相続人も特別縁故者となり得るものの、実際の事案では、いったん相続放棄をした法定相続人が特別縁故者と認められるハードルはかなり高いと考えておいた方がよさそうです。

被相続人に資産はあるものの、負債はあるのか、あるいは、負債があることはわかるがどれくらいの金額か、すぐには見当がつかないため、相続放棄をするか否か決めかねる場合は、手続は複雑になりますが、限定承認という方法を取るのが望ましいといえます。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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