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法人や団体が特別縁故者として相続財産の分与を受けることができるか

特別縁故者に対する相続財産の分与

1 特別縁故者となり得る資格

特別縁故者として相続財産の分与を受けることができる資格を有するのは、自然人に限られず、法人でもよいと解されています。法人格のない団体についても同様です。
したがって、株式会社、社団法人、財団法人、宗教法人、学校法人、社会福祉法人、地方公共団体なども特別縁故者となり得る資格を有すること自体は否定されません。

2 法人や団体に特別縁故関係が認められる場合

法人や団体が特別縁故者となり得る資格を有することが一般的には認められるとしても、具体的な事案において、法人や団体が特別縁故者と認められるかどうかは別問題です。

(1)古い裁判例について
古い審判例には、以下のように、具体的な縁故関係についてあまり検討・考慮しないまま、被相続人の意思を忖度し、特別縁故者に対する相続財産分与の制度が遺贈の補充的機能を持つことを強調して特別縁故関係を認めているものがありますが、現在も同じような判断がされるかについては疑問があります。

大阪家庭裁判所昭和57年3月31日審判(家裁月報35巻8号129頁)
申立人が学校法人(医科大学)の事案ですが、以下のように述べています。
「申立人・・・については、被相続人が大学の卒業生であり母校に対し愛情を抱いていたとか同窓会の会員として寄附を行つたり、後援活動をなしたり、その他行事に参加協力したという一事を以つてしては、被相続人との特別縁故関係を論ずるに足りないものである。しかしながら、特別縁故者への財産分与の制度は、遺言による財産処分すなわち遺贈を補充する趣旨のものと解することができるのであり、果されなかつた被相続人の生前意思の実現をもその根拠とするものということができるところ、この面よりすると、被相続人は完成された遺言書こそ残さなかつたけれども、遺言書作成の過程にあり、被相続人の意思は財産の大部分を母校である申立人・・・に寄附し、・・・と称する財団を設立して同大学の学生の奨学金の基金として役立てたいとするものであつたことが看取できるから、申立人大学は被相続人と特別の縁故がある者と認めるのが相当である。」

(2)菩提寺での永代供養について
また、菩提寺に関しては、以下の古い審判例で、特別縁故者とすることに若干の疑義があるとしながら、国庫帰属を避けるため特別縁故者とするとしているものがありますが、これについても、現在も同じような判断がされるかについては疑問があります。
被相続人の供養については、永代供養等にかかる費用の菩提寺への支払いについて、相続財産管理人が家庭裁判所から権限外行為許可を受けて支払うという処理が行われるのが一般的であると思います。

東京家庭裁判所昭和40年8月12日審判(家裁月報18巻1号96頁)
申立人が菩提寺である宗教法人の事案ですが、以下のように述べています。
「申立人が果して被相続人の特別縁故者に該当するかどうかについては若干の疑問なしとしないが、少くも被相続人が生前に遺言をしたとすれば、申立人に対して遺贈の配慮をしたであろうと期待できることは間違いないであろう。・・・被相続人は1,200万乃至1,500万円の財産を遺し、これを国庫に帰属せしめて国に貢献するものであるから、国としてもその霊位安堵のため供養等につき配慮するのは極めて当然であり、かりそめにもその墓が無縁墓となつて取り片付けられることのないようにすることが必要である。したがつて、民法第958条の3の規定の解釈上、被相続人の菩提寺をもつて特別縁故者とすることには若干の疑義がないでもないが、他に被相続人の供養をする適当な者がいない以上、菩提寺たる申立人をもつて被相続人の特別縁故者とし、これに相続財産の一部を分与するのが相当である。」

(3)最近の裁判例について
過去の審判例を見ると、法人や団体を特別縁故者と認めた事案では、被相続人の生前の生活状況や言動から、被相続人の死後、財産の全部または一部を法人や団体に寄付して欲しいとの被相続人の意思(遺志)が推測される場合が多いという指摘がなされています。
しかしながら、現在の実務では、生前の生活状況や言動から被相続人の意思を推測するだけなく、現実的な縁故関係の有無・内容を具体的に検討して特別縁故者性を判断しているものが多いようにみられます。
以下、このような観点からの最近の審判例における肯定例と否定例です。

①肯定した裁判例

高松高等裁判所平成26年9月5日決定(金融法務事情2012号88頁)
介護付き入所施設を運営する一般社団法人が申立人となった事例ですが、以下のように判示しています。
被相続人は、首から下がほぼ麻痺状態で、約6年間、本件施設に入居しており、その間、親族との交流があったとは認められず、本件施設において、日常生活についてほぼ全面的な介護や介助などを継続的に受けて生活してきたものと認められる・・・本件施設では、被相続人を適宜買い物やレクリエーションに連れ出すなどしていたほか、被相続人の実母が死亡した際には、その求めに応じて、葬儀や納骨、相続に関する手続などに便宜を図ったことが認められる。さらに、本件施設では、介護に関する被相続人独自のサービスの要求や無理な注文にも職員が辛抱強く対応してきており、これにより被相続人もほぼ満足できる生活状況であったことが認められる。」
「これらの事情によれば、被相続人は、本件施設において献身的な介護を受け、これによりほぼ満足できる生活状況を維持することができていたものと認められるのであるから、本件施設を運営する抗告人は、被相続人の療養看護に努めた者として、民法958条の3第1項にいう『被相続人と特別の縁故があった者』に当たると認めるのが相当である。」
「なお、被相続人が本件施設への入居中に月額16万円又は25万8000円の施設利用料を支払ったものと認められるものの、これは、先に認定したとおり厚生労働省が入居者の年間収入額等に応じて定めたものであって、実際の介護サービス等の程度や内容等を反映して定められた報酬であるとは認められない。また、仮に結果的に施設利用料が介護サービス等に対する報酬として正当な額であり、両者間に対価関係が認められるとしても、それだけで前記の特別縁故者に当たらないと判断するのは相当ではない。本件においては、先にみたように被相続人が長年にわたって本件施設で手厚い看護を受けてきたなどの事情が認められるのであるから、抗告人が被相続人の特別縁故者に当たるものと認めるのが相当である。」

②否定した裁判例

札幌家庭裁判所滝川支部平成27年9月11日審判(判例タイムズ1425号341頁)
介護予防支援事業契約に基づき予防訪問介護サービスを提供したことを理由として地方公共団体が申立人となった事案で以下のように判示しています。
「本件担当者の上記業務は、介護保険制度の下で、地方公共団体の事務として介護予防支援事業契約に基づいて実施されたものである。また、予防訪問介護サービス自体は、指定介護予防サービス事業者が派遣したヘルパーが基本的に担当していたものであるし、本件担当者が被相続人の対応に当たっていた期間も約1年半にとどまり、長期間にわたって特別の対応を継続してきたとも言い難い。申立人が被相続人の火葬や埋葬を執り行った点についてみても、これらは墓地、埋葬等に関する法律に基づいて行われたものであり、その費用は被相続人の相続財産から支弁されているのであるから、かかる事情をもって申立人が特別の負担をしたとみることは困難である。そして、被相続人が、その相続財産を本件担当者や申立人に贈与するとか、遺贈するといった趣旨の話をしたという事情も特段うかがえない。」
「相続財産管理人の・・・意見を踏まえても、申立人が被相続人の療養看護に努めた者に当たるとも、被相続人と特別の縁故があった者に当たるとも認めることはできない。」

このように法人や団体が特別縁故者に対する相続財産分与の申立をする場合には、生前の生活状況や言動から被相続人の意思を推測するということだけなく、現実的な縁故関係の有無・内容について具体的・詳細に主張していくことが重要となります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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