遺留分の算定において生前贈与はどこまで算入されるか |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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遺留分の算定において生前贈与はどこまで算入されるか

遺留分

1 遺留分算定の基礎となる財産の算定における生前贈与の算入

遺留分算定の基礎となる財産の額が大きければ遺留分額は多くなり、逆に遺留分算定の基礎となる財産の額が小さければ遺留分額は少なくなります。
したがって、遺留分算定の基礎となる財産の算定において算入される生前贈与の額は、遺留分減殺請求をする側にとっても、される側にとっても重要な問題です。

2 平成30年の民法(相続法)改正前~令和元(2019)年7月1日よりも前に開始した相続の場合~

(1)平成30年の民法(相続法)改正前の規定

民法第1029条第1項は、
「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定する。」
と規定していました。
したがって、生前贈与があった場合は、遺留分算定の基礎となる財産の額が変わってくる、つまりその分だけ増加するということになります。

他方で、民法第1030条は、
「贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。」
と規定していました。
この条文だけをみれば、贈与を受けた者が、相続人であろうと相続人以外であろうと、贈与が相続開始時から1年より前であれば、例外的な場合にあたらない限り、計算には算入されないようにも読めます。
なお、例外的な場合というのは、同じ条文に規定のある「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」に該当する場合です。

(2)平成30年民法(相続法)改正前の解釈
しかし、実際には、そのようには解釈されていませんでした。
贈与を次の三つに分けます。
①相続人以外への贈与
②相続人への贈与で特別受益(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)にあたるもの
③相続人への贈与で②以外のもの

このうち、①と③の贈与については、民法第1030条に書いてあることがそのまま適用される、つまり、原則として1年以内のものだけが算入されると解釈されていました。
他方、②の贈与については、遺留分に関する民法第1044条の規定が特別受益の持戻しについての民法903条の規定(これについては時期的な制限はありません。)を準用すると規定していたことから、贈与がいつ行われたものであっても遺留分の計算に入る(遺留分算定の基礎となる財産に算入される)と解釈されていました。

(3)最高裁判所平成10年3月24日判決(民集52巻2号433頁)
上記の最高裁判所の判例があり、以下のとおり判示されています。
民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。けだし、民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、すべて民法1044条、903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ、右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないとすると、遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず、減殺の対象となるべき遺贈、贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが、このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきであるからである。」

つまり、相続人に対して特別受益にあたる贈与がされた場合は、その時期が何時であろうとも、遺留分算定の基礎になる財産に算入されることとされていました。

(4)被相続人が持戻し免除の意思表示をしていた場合
生前贈与をした被相続人が、特別受益にあたる贈与について遺産に持ち戻して計算しなくてもよいといういわゆる「持戻し免除の意思表示」をしていた場合はどうでしょうか。
この場合も、特別受益にあたる贈与は時期の制限なく遺留分算定の基礎になる財産に算入されることとなるのでしょうか。

この点については、持戻し免除の意思表示があっても算入されるとされています。
最高裁判所平成24年1月26日決定(裁判集民事239号635頁・家月64巻7号100頁)が次のように判示しています。
「遺留分権利者の遺留分の額は、被相続人が相続開始の時に有していた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに遺留分割合を乗ずるなどして算定すべきところ(民法1028条ないし1030条、1044条)、上記の遺留分制度の趣旨等に鑑みれば、被相続人が、特別受益に当たる贈与につき、当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても、上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。」

この判例は、遺留分制度は、相続人が相続財産の一定割合を確保することを保障するための制度であるから、被相続人がいかようにでも遺留分を減らすことができないようにその財産処分の自由を制限する制度と捉えています。
持戻し免除の意思表示によりそのような遺留分制度の趣旨が損なわれないようにする趣旨であると理解できます。

(5)平成30年の民法(相続法)改正前の規律
このように平成30年の民法(相続法)改正前の規律によると、相続人への特別受益にあたる贈与(上記②の贈与)については、何時までも遺留分の問題がついて来る結果となっていました。
平成30年の民法(相続法)改正前の規律は、令和元(2019)年7月1日よりも前に開始した相続になお適用されます。

3 平成30年の民法(相続法)改正後~令和元(2019)年7月1日以後に開始した相続の場合~

平成30年7月6日成立の改正民法によって、この点の規律が改められることになりました。
相続人に対する贈与(上記②と③の贈与)については、規律が下の図のように変わりました。
相続人以外の者に対する贈与(上記①の贈与)については変わっておりません。
下の図でいう「特別受益」とは、婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与を指しています。

色のついているところが、持戻しが要求される部分です。
法改正前との変更点は以下のとおりです。
(ⅰ)相続人に対する贈与を相続開始前1年以内のものも含めて特別受益としての贈与(民法第903条1項のもの)に限定
(ⅱ)相続人に対する特別受益としての贈与は相続開始前10年以内のものに限定

相続人については、その人的な関係の強さと紛争の複雑化を避けるために、相続人に対する贈与を相続開始前1年以内のものも含めて特別受益としての贈与(第903条1項のもの)に限定しました。
他方で、例えば、自分には全く知り得ない相続開始前20年前の相続人に対する贈与が遺留分の計算に算入される結果、そのような古い贈与を知り得ないことが多い第三者である受贈者や受遺者が遺留分に基づく請求を受けて不測の損害を受け、その地位が不安定になる可能性があることからそのような事態を防ぐため、算入される特別受益としての贈与は相続開始前10年以内のものに限定したものです。

条文は以下のとおりです。
民法第1044条
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

なお、改正後の民法第1044条の条文にもあるように、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年、10年という期間制限は適用されません。

この10年の制限は、遺留分査定の基礎となる財産の価額の計算に適用されますが、遺留分侵害額の計算にあたって控除する「特別受益」を10年以内のものに制限するものではありません。

平成30年の民法(相続法)改正後の規律は、令和元(2019)年7月1日以後に開始した相続に適用されます。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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