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「相続させる」趣旨の遺言と対抗要件

遺言

1 「相続させる」趣旨の遺言

例えば、「遺言者の長男Aに甲土地及び乙建物を相続させる。遺言者の二男Bに丙土地を相続させる。」など「相続させる」という表現の遺言がよくみられます。
これは、いわゆる「相続させる」趣旨の遺言と言われ、平成30年7月6日に成立した改正民法(相続法)では、「特定財産承継遺言」(遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言、第1014条第1項)と呼ばれています。

2 「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)の法律的効果

「相続させる」趣旨の遺言の法律的効果については、最高裁判所平成3年4月19日判決(民集45巻4号477頁)において述べられています。

(1)遺産分割方法の指定である
上記の最高裁判所の判決は次のように述べています。
「遺言書において特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の『相続させる』趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法908条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の『相続させる』趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であ」る。

(2)遺産分割協議や家庭裁判所の審判を経ずに被相続人の死亡時に権利が承継される
上記の最高裁判所の判決はまた次のように述べています。
「他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。」

3 対抗要件の問題

(1)平成30年の民法(相続法)改正前の解釈
このような「相続させる」趣旨の遺言の法的効果を前提として、最高裁判所平成14年6月10日判決(裁判集民事206号445頁) は、次のように判示しました。
「特定の遺産を特定の相続人に『相続させる』趣旨の遺言は、特段の事情のない限り、何らの行為を要せずに、被相続人の死亡の時に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継される(最高裁平成元年(オ)第174号同3年4月19日第二小法廷判決・民集45巻4号477頁参照)。このように、『相続させる』趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分又は指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。そして、法定相続分又は指定相続分の相続による不動産の権利の取得については、登記なくしてその権利を第三者に対抗することができる(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁、最高裁平成元年(オ)第714号同5年7月19日第二小法廷判決・裁判集民事169号243頁参照)。したがって、本件において、被上告人は、本件遺言によって取得した不動産又は共有持分権を、登記なくして上告人らに対抗することができる。」

つまり、「相続させる」趣旨の遺言によって相続人が取得した不動産の権利移転は登記なくして第三者に対抗することができる との解釈が取られていました。

しかし、このような結論を貫くと次のような問題点がありました。
(ⅰ)相続人Aが「相続させる」趣旨の遺言により法定相続分を超える不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒相続人Aが常に優先する
(ⅱ)相続人でないBが遺贈により不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒登記(対抗要件)の先後で決する
(ⅲ)相続人Cが遺産分割により法定相続分を超える不動産の権利を取得したが、第三者がそれを取得したり、相続債権者が差し押さえた場合
⇒登記(対抗要件)の先後で決する

このように(ⅰ)と(ⅱ)(ⅲ)とで異なった結論となり、(ⅰ)の結論は、遺言の有無や内容を知り得ない第三者や相続債権者の利益を害し、登記制度や強制執行制度の信頼を害するおそれがあるという問題がありました。

(2)平成30年の民法(相続法)改正後の規律
平成30年の改正民法(相続法)は、上記の判例法理を変更し、「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)についても、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できないものとしました。

改正民法の条文は以下のとおりです。
第899条の2
第1項 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
第2項 前項の権利が債権である場合において、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

これにより、「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)においてはできるだけ早期に対抗要件を備えておくことが重要になってきます。
例えば、「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)により特定の不動産の全部について権利を取得した相続人が対抗要件を備える前に、他の相続人が当該不動産に法定相続分による相続登記をして自己の持分を第三者に譲渡した場合、法定相続分を超える部分については、その第三者に対して「相続させる」趣旨の遺言(特定財産承継遺言)による権利取得を対抗できないことになります。

なお、上記の改正民法(相続法)規定は、2019(令和元)年7月1日から施行されており、施行日以後に開始した相続が原則として対象となります。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

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