死後事務を誰かに頼むにはどのような契約を結べばよいか~死後事務委任契約~ |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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死後事務を誰かに頼むにはどのような契約を結べばよいか~死後事務委任契約~

財産管理・死後事務

1 死後の事務を委任することは可能か

自分が死亡した後、医療費や老人ホーム等の施設使用料の支払い、年金、健康保険や介護保険等の手続、葬儀、埋葬や永代供養等に関する事項、その他のいわゆる死後事務を誰かに頼むことは可能でしょうか。

誰かに事務処理を頼むということは、法律的には、委任契約又は準委任契約となります。委任契約や準委任契約については、委任者・委託者の死亡により終了するとの条文があります(民法第653条第1号、第656条)。
したがって、生前に死後事務についてこれらの契約を結んでいても、頼んだ本人(委任者)が死亡してしまうと、死後事務に関する契約が終了してしまい、契約をした意味がなくなってしまうようにも思えます。

2 死後事務委任契約の効力

しかし、死後事務に関する契約については、その効力を認めた最高裁判所の判決があります。
最高裁判所平成4年9月22日判決(金融法務事情1358号55頁)
この判決の事案は、入院加療中のAが、A名義の預貯金通帳、印章と預貯金通帳から引き出した金員をBに交付して、Aの入院中の諸費用の病院への支払い、Aの死後の葬式を含む法要の施行とその費用の支払い、Aが入院中に世話になった家政婦と友人に対する応分の謝礼金の支払いを依頼する旨の契約を締結していたところ、Bが、Aが死亡した後、その依頼の趣旨に沿って、病院関連費、葬儀関連費、四十九日の法要までを施行した費用や家政婦と友人に対する各謝礼金を支払ったというものです。
原判決は、AがBに対して金員などの交付をしたのは、これらの各費用などの支払を委任したものであるから、委任者であるAの死亡によって委任契約は終了した(民法第653条)として、Bは、Aから受け取っていた預貯金通帳、印章のほか、Bが支払った各費用などを控除した残金を、Aの相続財産をすべて相続したCに返還すべきであるとし、また、各費用などのうちBの友人に対する謝礼金の支出は、Cの承諾を得ることなくBが独自の判断でしたものであるから不法行為となり、BはCに対し同額の損害賠償責任を負うとしました。
しかし、最高裁判所は、自己の死後の事務を含めた法律行為等の委任契約がAとBとの間に成立したとの原審の認定は、当然に、委任者Aの死亡によっても契約を終了させない旨の合意を包含する趣旨のものというべきであり、民法第653条の法意がこのような合意の効力を否定するものでないことは疑いを容れないところであるとして、契約が民法第653条の規定によりAの死亡と同時に当然に終了すべきものとしたのは、同条の解釈適用を誤っていると判示しています。

したがって、この最高裁判所の判決に従えば、生前に、死後の事務について、それを頼もうとする相手と契約を結んでおけば、あらかじめ決めておいた死後事務を頼むことができます

契約条項としては、その一部のみですが例示をすると、以下のようなものにすることが考えられます。

3 成年後見人が選任されている場合

成年後見人が選任されている場合については、民法第873条の2が設けられており、療養費の支払いのような弁済期が到来した債務の弁済、火葬又は埋葬に関する契約の締結等といった一定の範囲の死後事務が成年後見人の権限に含まれることが、法文上、明確にされ、成年後見人は、一定の行為については、家庭裁判所の許可を得る必要があるものの、成年後見人が同条の死後事務を行うことができることが法律上明確にされています。
しかし、この規定は、成年後見人のみを対象にするものです。

(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
第873条の2 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

4 任意後見の場合

自らの判断能力が衰えた場合の生前の財産管理を人に委ねる方法としては、成年後見のほかに任意後見という方法があります。
成年後見の場合は、誰が成年後見人として本人の財産管理を行うかは本人の判断能力が衰える前には決まっていません。成年後見人が選任される時に裁判所が決めます。
しかし、任意後見の場合は、本人がまだ判断能力のある時に公正証書を作成して、判断能力が衰えた後に任意後見人となるべき人を決めておくとともに、その代理権の範囲をあらかじめ決めておくことができます。
わざわざ公正証書を作って任意後見人を選任しておこうという人は、死後の事務についても誰かに頼んでおきたいという考えを持っていることが多いと思われます。

しかし、死後の事務について、任意後見の公正証書に何も定めがなければ、任意後見人は死後の事務について当然に行うことはできません
任意後見人には、上記のように民法第873条の2の規定の適用もありませんので、応急処分(民法第876条の5第3項、民法876条の10第2項、第654条)や事務管理(民法第697条)の規定を根拠に、死後にどこまでの事務を行うことができるのかの可否を判断することになります。

任意後見人に死後の事務についても頼みたいということであれば、任意後見契約と死後事務委任契約をパッケージで結んでおくと判断能力を喪失した後、死後の事務についても円滑に進めてもらうことができます。
また、判断能力が低下して任意後見が開始される前の見守り契約(安否確認や法律相談など)財産管理契約、死後の遺産の処理や相続に関する遺言書の作成などを加えると、かなり充実したメニューとなり、イメージとしては、下の図のようになります。

相続人が存在しない状態で亡くなる方も増えてきており、また、相続人がいても死後に争いになるケースも増えてきています。生前において、判断能力が衰えた後や死後において、自分の意思がきちんと実現されるよう対策を講じておくことが、ますます重要になってきていると思います。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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