節税目的の養子縁組の効力~相続のみを目的とする養子縁組~ |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

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節税目的の養子縁組の効力~相続のみを目的とする養子縁組~

相続人の範囲と調査

1 養子縁組の無効原因

養子縁組の無効原因として、民法第802条第1号「当事者間に縁組をする意思がないとき」をあげています。
養親子関係を形成する意思(実体的意思・実質的意思)が実際になければ、養子縁組は無効になると解されています。
この考え方(実体的意思説)によれば、他の目的を達するための便宜的手段として養子縁組の形式が用いられているに過ぎない場合には、「当事者間に縁組をする意思がないとき」として養子縁組は無効と判断されることになろうかと思います。

2 相続のみを目的とする養子縁組

養親からの相続のみを目的とする養子縁組について考えると、成年養子にあっては養育目的の養子縁組というのは通常は考えらません。
この場合、相続についての効果意思がある養子縁組の場合と、単に相続税の軽減のみを目的としている養子縁組の場合とがあると考えられますが、養子縁組の有効性を判断するにあたっては、「縁組をする意思」の意義をどのように解釈するかがポイントとなります。

3 最高裁判所平成29年1月31日判決(民集71巻1号48頁)

事案としては、被相続人の長女と二女が、被相続人の長男の子(つまり被相続人の孫(平成23年生まれ))との養子縁組を、縁組をする意思を欠き無効であるとして争った事件です。
事実経過としては、被相続人は平成24年3月に妻と死別し、平成24年4月、長男夫婦と孫ともにに自宅を訪れた税理士等から、孫を養子とした場合に遺産に係る基礎控除額が増えることなどによる相続税の節税効果がある旨の説明を受け、その後、養子となる孫の親権者として長男夫婦、養親となる者として被相続人、証人として被相続人の弟夫婦が、それぞれ署名押印して養子縁組届に係る届書が作成され、役所に提出されたというものです。

最高裁判所は次のように判示して養子縁組を有効としています。
「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」
「したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」
「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない。」

原審の東京高等裁判所平成28年2月3日判決(民集71巻1号58頁・金融商事判例1515号12頁)は、
本件養子縁組は、専ら、税理士が勧めた被相続人死亡の場合の相続税対策を中心とした被相続人の相続人の利益のためになされたものにすぎず、被相続人や代諾権者である長男夫婦において、被相続人の生前に被相続人と孫との間の親子関係を真実創設する意思を有していなかったことは、明らかというべきであるとしたうえで、本件養子縁組は、被相続人や代諾権者である長男夫婦に真に養親子関係を創設する縁組意思がなかったことから無効といわざるを得ない
と述べており、事実認定をしたうえで縁組意思の存在を否定しています。
もっとも、この東京高等裁判所の判決も、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合でも、そのことの故に直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとまでは言っていないように思われます。

上記の最高裁判所の判決は、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは併存し得るとしつつ、専ら節税のために養子縁組をする場合であっても直ちに「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできないとしています。しかし、他方で、節税の動機があれば縁組意思が肯定されるとしているとも思われないので、節税のため養子縁組を仮装したような場合には上記の最高裁判所判決によっても養子縁組は無効となると考えられます。
いずれにしても、この最高裁判所の判決の存在によって、節税の目的での養子縁組が無効になる場合はかなり限定されるように思われます。

4 税務上の取扱い

法律的には、上記のように「縁組をする意思」が認められればよいのですが、税法上の取扱いは、養子縁組が法律的に有効でも、節税効果がそのまま全てについて認められるわけではないので注意が必要です。

相続税の計算をする場合には、相続税の基礎控除額等については、法定相続人の数をもとに計算をします。
基礎控除額については、「3000万円+600万円×法定相続人の数」という計算を行います。
したがって、養子を増やせば増やすほど、基礎控除が増え、節税ができるようにも見えます。
しかし、実際はそのような制度にはなっていません。
基礎控除額等の計算をするときの法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定の例外を除き、原則として以下のように一定数に制限されていますので(相続税法第15条第2項等)、注意が必要です。
    被相続人に実の子供がいる場合  1人まで
 被相続人に実の子供がいない場合 2人まで

また、養子の数を相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、養子の数を相続人の数に算入しないで相続税の課税価格及び相続税額を計算することができるとの規定もあります(相続税法第63条)。

 

     【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

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