相続人を受取人とした生命保険金(死亡保険金)は相続財産となるか |東京都千代田区の相続弁護士 菅野光明

03‐3221‐3335

業務時間 9:00~17:30(平日)

(ご予約で)夜間・土日休日も相談対応可能

お問い合わせ
コラム画像

コラム

相続人を受取人とした生命保険金(死亡保険金)は相続財産となるか

遺産の範囲と調査

1 法律上の取扱いと税務上の取扱いの異なるもの

法律上の取扱いと税務上の取扱いの異なるものとして、被相続人を被保険者として生命保険がかけられていた場合に、被相続人が死亡したことにより支払われる死亡保険金の取り扱いがあります。

2 法律上の取扱い

(1)死亡保険金は相続財産に含まれるか
相続人を受取人とした生命保険金が相続財産となるかという問題があります。
法律上の取扱いについては、最高裁判所の判例によって、相続財産ではないということで確定しています。

(2)最高裁判所昭和40年2月2日判決(民集19巻1号1頁)
上記の最高裁判所の判決は、被保険者死亡の場合の保険金受取人が単に「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定されているときは、特段の事情のない限り、その保険契約は、被保険者死亡の時に相続人となるべき者を受取人として特に指定したいわゆる「他人のための保険契約」と解するのが相当であり、保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人となるべき個人を特に指定した場合には、その保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に指定された相続人の固有財産となり被保険者の遺産から離脱しているものといわなければならないとしています。

以下、判決文です。
「本件養老保険契約において保険金受取人を単に『被保険者またはその死亡の場合はその相続人』と約定し、被保険者死亡の場合の受取人を特定人の氏名を挙げることなく抽象的に指定している場合でも、保険契約者の意思を合理的に推測して、保険事故発生の時において被指定者を特定し得る以上、右の如き指定も有効であり、特段の事情のないかぎり、右指定は、被保険者死亡の時における、すなわち保険金請求権発生当時の相続人たるべき者個人を受取人として特に指定したいわゆる他人のための保険契約と解するのが相当であつて、前記大審院判例の見解は、いまなお、改める要を見ない。」
「そして右の如く保険金受取人としてその請求権発生当時の相続人たるべき個人を特に指定した場合には、右請求権は、保険契約の効力発生と同時に右相続人の固有財産となり、被保険者(兼保険契約者)の遺産より離脱しているものといわねばならない。然らば、他に特段の事情の認められない本件において、右と同様の見解の下に、本件保険金請求権が右相続人の固有財産に属し、その相続財産に属するものではない旨判示した原判決の判断は、正当としてこれを肯認し得る。」

このように、被相続人が自己を保険契約者・被保険者として、相続人の一部の者を保険金受取人と指定した保険契約の死亡保険金請求権は、その保険金受取人が自らの固有の権利として取得するものであって、保険契約者や被保険者から承継取得するものではないから、これらの者の相続財産に属するものではないとしています。

(3)遺留分算定の基礎にもならない
最高裁判所平成14年11月5日判決(民集56巻8号2069頁)は、死亡保険金請求権は、被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないことから、実質的に保険契約者や被保険者の財産に属していたものとみることはできないので、民法1031条に規定する遺贈又は贈与にあたるものではなく、これに準ずるものともいえないとしています。

以下、判決文です。
「自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は、民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできないと解するのが相当である。けだし、死亡保険金請求権は、指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであって、保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく、これらの者の相続財産を構成するものではないというべきであり(最高裁昭和36年(オ)第1028号同40年2月2日第三小法廷判決・民集19巻1号1頁参照)、また、死亡保険金請求権は、被保険者の死亡時に初めて発生するものであり、保険契約者の払い込んだ保険料と等価の関係に立つものではなく、被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであって、死亡保険金請求権が実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることもできないからである。」

3 税務上の取扱い

これに対して、税務上の取扱いでは、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。

被相続人が保険料を支払っていた生命保険金は、本来の相続財産ではないため遺産分割の対象とはならないものの、相続税法上のみなし相続財産とされ、保険契約上の受取人が相続又は遺贈により取得したとみなされ、相続税の課税の対象となります(相続税法3条)。
つまり、本来の相続財産ではないが、税法上の取扱いで相続財産とみなし、相続税を課税するということです。

相続税が課税されるのは、被保険者と保険料の負担者が同一人の場合です。

受取人が被保険者の相続人であるときは相続により取得したものとみなされ相続人以外の者が受取人であるときは遺贈により取得したものとみなされることになります。

ただ、生命保険金は遺産分割の対象となるものではないため、相続税の課税の方式も、他の相続財産とは異なってきます。
死亡保険金の受取人が相続人である場合、全ての相続人が受け取った保険金の合計額が、非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を超えるときは、その超える部分が相続税の課税対象になります。
他方、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません

生命保険会社は、死亡保険金を支払ったときは、支払調書を税務署に提出しているようです。

【菅野綜合法律事務所 弁護士菅野光明】

監修

菅野綜合法律事務所

弁護士 菅野光明第二東京弁護士会所属

弁護士歴20年超える経験の中で、遺産分割、遺言、遺留分、相続放棄、特別縁故者に対する相続財産分与など相続関係、財産管理、事業承継など多数の案件に携わってきた。事案に応じたオーダーメイドのていねいな対応で、個々の案件ごとの最適な解決を目指す。

その他のコラム

相続人が海外居住者である場合の印鑑証明書等相続手続に必要な書類

遺産分割

続きを読む

中小企業の経営権の承継と遺産分割方法の選択

事業承継

続きを読む

異順位の相続資格重複~先順位の相続資格喪失による影響

相続人の範囲と調査

続きを読む

相続の承認・放棄の熟慮期間はいつから起算されるか

相続放棄・限定承認

続きを読む

弁護士歴20年以上積み上げてきた経験実績
依頼者お一人お一人とじっくり向き合い、ていねいな説明
きめ細やかな対応が強みです